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びいどろ時舟 39 

不安に駆られた鏡は、シンを見つめたまま、全身をかたかたと震わせていた。
ぱたぱたと透明な水の珠が、転がり落ちてゆく。

「な、なんも、わからん・・・新さん・・・。なんも・・・。」

「大丈夫だよ。鏡坊はこれから、ずっとここで新さんと一緒にいるんだ。」

「・・・こいから、ずっと一緒におらるの・・・?」

「そうだよ。パタヴィアの海に落っこちた鏡坊を、天神様が拾い上げてくれたんだ。」

「天神様・・・あしはもう駄目て思おて、天神様と新さんに一生懸命お願いしたと。天神様は、あしのお願いば聞いてくれたと?」

真っ直ぐに向けられた無垢な瞳に射抜かれて、シンは肯くしかなかった。
ブン・・・と、軽い音を立てて、鏡の腕に巻いたログにセマノの姿が浮かんだ。

「邪魔したかな?軽い暗示を掛けておいたんだけど、そろそろ解ける頃かと思ってね。」

「セマノ特別学芸員。こっちからお伺いしましょうか?それとも今すぐここに説明に来ていただけますか?お邪魔虫め、いい所だったんだぞ。くそったれ。」

映像のセマノが楽しそうに笑い揺れた。
鏡がこの世界に居る理由、その答えは、天神様ならぬセマノが持っていた。
やたらと上機嫌なセマノは、喜々としてシンに語った。

「鏡は海に落ちただろう?実際は船の中で血を吐いて事切れることになっていたらしいんだ。遺体は上がらなかったから、後世に影響はないだろうという事になった。」

「それは、鏡を管理人にするのに、管理省から許可が下りたという事なのか?」

「そうだよ。元々サンプルは、後世に影響を与えない人間の中から選抜されるからね。鏡に関しては、何の問題もなかった。」

「・・・ったく。ぼくの悲嘆は傍で見ていて、さぞかし滑稽なものだったろうね。」

シンはそう言いながら笑っていた。小さな声で、ありがとうと呟いたのを聞いて、セマノは肩をすくめた。
傍にいる鏡は困ったような顔をして、二人のちぐはぐな会話を聞いている。

「これから管理省は方針を転換することにしたんだよ。もっと、この星を大切に思い、執着する人々が増えれば滅びの決断をするときに躊躇してくれるだろうとね。鏡のように素直に、ちっぽけな幸せを大きく感じるようになれば、二度と人類は愚かな行為に走ることはないだろう・・・と結論が出た。」

「そうだ。」と言って、セマノは小さなカムを新しい時の管理官「カガミ」の頭に乗せた。

「これは・・・なんですか?」とカガミが触れる。

くすくすと、二人の未来人が笑う。

「やっぱり、鏡坊は長崎の言葉の方が可愛いな。これは、外そう。」

「シン。以前にも言ったはずだ。ぼくはこの子を愛おしいと思ってるって。」

「は・・・?鏡をぼくにくれるために、管理省で熱弁をふるって、奔走してくれたんじゃないのか?」

「馬鹿な!それとこれとは別の話だ。ぼくだってやっと、過去を吹っ切れたんだから。この子はぼくが貰う。」

「なにっ!?勝手なことを言うな。」

知らずに互いの語気が、多少荒くなった。

「新さん・・・天神様・・・喧嘩は良くないです。やめてください。あの・・・ぼくが原因なんですか?どうしたらいいんですか?二人が喧嘩すると・・・ぼくは・・・大好きな二人が争うなんて・・ぅあ・・・ん、あ~・・・んっ・・・。」

とうとう顔を覆って泣いてしまった鏡の様子を見て、二人はやっと我に返ったようだ。おろおろと、座り込んで膝に顔を埋めた鏡の周囲で慌てふためいた。

「ああ、鏡坊・・・。大丈夫だ、これは喧嘩じゃなくてね。」

「そう・・・、君の仕事についての相談だったんだ。これからどちらかについて、仕事を覚えなければいけないからね。」

「ほ・・・んと?仕事をさせてくれるんですか?」

「勿論だとも。頑張って仕事を覚えような。これから、大変だぞ。」

カガミは顔を上げて、こくりと頷いた。
二人は顔を見合わせて、暗黙のうちに何やら協定を結んだようだった。そこにいる少年は、丸山を一歩も出たことの無いほんの子供だった。
とうに失った無垢な生成りのような純真さを思い出し、二人はこの場に鏡がいる幸せをやっと思い出した。






(´・ω・`) 遲くなってごめんね。

たぶん、あと一話で終わります。最後までお付き合いくだされば、うれしいです。

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1 Comments

此花咲耶  

拍手コメントロンさま

(*⌒▽⌒*)♪こうなりました~!

奪い合ってますが、あまりに「ねんね」なので、このままず~っとこんな調子かも知れません。それもまた、楽しそうです。
ハピエン・・・練習中です(`・ω・´)←どこが~~~

2011/08/15 (Mon) 08:56 | REPLY |   

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