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びいどろ時舟 38 

同じ痛みを知っているセマノは目を閉じて、自分をかぴたんさん、天神様と呼んだ薄倖のサンプルの面差しを浮かべていた。
サンプルが海難事故に遭うことは、シンには既に織り込み済みだったはずだ。
だが現実とは裏腹に、シンの緩んでしまった感情のタガが、ここに来てはじけ飛んでしまったようだ。

「すまない・・・セマノ。君には散々きついことを言ったくせに。・・・自分でも、こんなに動揺するとは思わなかったよ。情けない・・・。」

椅子に這い上がって、疲れきった顔のシンは息をついた。

時の管理人の彼等がこれほどの苦い思いをしながら過去を旅するには、ある理由がある。
時舟の存在も、少ない管理官達も、何かに罰せられるようにして歴史の中に降り立ち、繰り返される滅びを見つめ苦い思いに耐えていた。
遠い未来、時の管理人が一つの時代のデータを収集するごとに、「修復完了」と言う文字がログに浮かぶ。
終わりの見えない時船の管理者たちの虚しい作業は、遠い未来に時舟が製造された年代まで延々と続く。サンプルから得た情報を一つずつ繋いで、放射能で汚染された世界を元通りに修復する作業が続けられてゆく。
近く消え去るはずの惑星を、消滅から救い運命を変える。。
それが時の管理省が過去に介在してまで行っている、重大な仕事だった。
今やこの星に居住できない未来人が犯した過ちを償うために、ありとあらゆる過去の情報が必要だった。
破壊された星の、失った膨大な時間を再び構築し、消滅を回避する。それは気が遠くなる膨大な時間だった。
幾度も積み重ねては、土壇場で消滅する星を時の管理官たちは何度も見てきた。

シンは顔を覆っていた。

「鏡坊・・・。ごめんよ。新さんは、救ってやれなかった。」

「はい・・・。」

誰かが入室したのだろう、顔を覆った手の隙間から白い靴の先が見えた。

「今日付で東アジアエリアに配属されました、カガミです。よろしくお願いいたします。」

「・・・鏡坊?何で・・・?君は、パタヴィアの海に沈んだはずじゃ・・・。」

「パタヴィア・・・?それは、東アジアエリアにある土地ですか?聞いたことはありませんが、古い地名ですね?」

そこにいるのは、新しく着任した時の管理人だった。だが、その姿は海に沈んだはずの鏡だった。
一瞬、理解に苦しんだシンの顔が歪む。
指を伸ばし、そっと見覚えのある少年の肉の無い薄い頬に触れた。
夢ではないかと・・・。

「鏡・・・本当に君なのか?ここで会えるなんて。思いもしなかった。鏡・・・。信じられないよ。」

嗚咽を堪えた時の管理人シンが、新しく配属されてきた細い少年を抱きしめた。
丸い大きな黒い瞳が、シンを捉え濡れていた。

「新さん…?あれ・・・何で、涙があふれると・・・?おかし…ですね。涙が、止まらん・・・止まらないです。」

「いいんだよ、鏡。ほんの少しの間、こうしていてくれ。君に逢えて本当にうれしいんだ。」

涙が止まらないカガミは、茫然としながら先輩管理官のシンの胸で涙にくれていた。

「どういう事でしょう・・・?初めてお会いしたはずなんですが、すごく・・・あなたが懷かしいの・・・です。ぼくもずっと・・・あなたに会いたかった、気がします。」

「管理人になるには、記憶を抜いているはずだからね。おそらく海難事故のせいと管理局のせいだろう。それにしても、こんなことが許されるなんて・・・鏡坊・・・ここにおいで。」

シンは手を曳き、カガミを長椅子に座らせた。
そっと額の髪を払い、白い額に唇を落とした。ちゅっ・・・と音を立てたら、カガミがくすぐったそうに声をあげた。
逃げないで・・・と声を掛け、シンはカガミを引き寄せた。

「あ・・・の?シン管理官・・・?」

「怖いかい?」

「いいえ…すごく安心します。何故かわかりませんが、ずっとお傍でこうしてたいです。」

「可愛い鏡坊・・・こっちを向いて。口を吸ってもいいか?」

カガミは小首をかしげて、シンの成すがままになっている。口腔を蹂躙されても、じっと潤んだ瞳を向けていた。
カガミの鼓動だけが高く響いて、空気を振動させていた。おずおずと伸ばした手が、シンの首に巻きついた。
シンの体温を感じて、カガミの深く内部に沈められたはずの記憶が、ふわりと浮かび上がった。

「ど・・・して?シンさん?あし・・・は、どうしてここにおるとね?」




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3 Comments

此花咲耶  

鍵付き拍手コメントsさま

きゃあ~(〃▽〃)
何度も覗いてくださったそうでありがとうございました。
此花、うれしくて舞い上がっています。くるくる~・・・
これも、ひとつの鏡の幸せだと思っていただければ嬉しいです。
コメントうれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/08/14 (Sun) 22:18 | REPLY |   

此花咲耶  

tukiyo さま

> ありがとーー天神さま、此花さま~ パンパン

拝まれてしまいました~(〃▽〃)

> もしかしてこれからBL突入ですか?ww
> でも私的には無理してえっち要素をねじこまなくても
> いい気もします。

(´・ω・`) 何とか頑張ってBLの方向へと進みたかったのですが、鏡が子供すぎてキスどまりでした。
これから、長い時間、シンとセマノ奪い合って欲しいと思います。がんばれ、鏡。
(*゚ロ゚)ハッ!! 鏡:「どきどき・・・」

> 流れに沿って書いた結果にえっちがあったり、なかったりでいいんではないかと・・・。
> 今でも充分、此花さんちの坊やに健気萌えしとりますw

はい、そういっていただいてほっとします。(*⌒▽⌒*)♪
(〃▽〃)鏡:「ありがとうございます~♡」

> 勿論、えっちがあればあったで萌えますけどぉ~~~。
> いずれにしても萌える準備万全!

なかった~~!!
ごめんよ~~~|゚∀゚)
>
> 鏡はお膝に抱っこして目一杯甘やかしてあげた~い。

(〃▽〃)甘やかしてください。コメントありがとうございました。うれしかったです。

2011/08/14 (Sun) 22:12 | REPLY |   

tukiyo  

うわぁぁぁぁい

ありがとーー天神さま、此花さま~ パンパン

もしかしてこれからBL突入ですか?ww
でも私的には無理してえっち要素をねじこまなくても
いい気もします。
流れに沿って書いた結果にえっちがあったり、なかったりでいいんではないかと・・・。
今でも充分、此花さんちの坊やに健気萌えしとりますw
勿論、えっちがあればあったで萌えますけどぉ~~~。
いずれにしても萌える準備万全!

鏡はお膝に抱っこして目一杯甘やかしてあげた~い。

2011/08/14 (Sun) 07:53 | EDIT | REPLY |   

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