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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・8 

「貴久様のご容態はいかがなのですか?」


次の日、診察に当たった奥医師を尋ね、大輔は聞いた。


できることは何でもしたいと思った。


大輔の目前で落馬した貴久の、意識はまだ戻らない。


出血が多く、意識が戻らなければ峠は今夜だろうと奥医師が言う。


貴久の居なくなる明日が来ると、思えなかった。


涙がこぼれないように、空を見上げた大輔の目に、大きな銀の月が写る。

快活な貴久の笑顔が滲んで溶けた・・・。


面会も赦されぬ、固く閉ざされた部屋の向こうで、短い浅い息遣いだけが辛うじて命を感じさせた。


「どうか、どうか貴久さまをお守り下さい。お袖の方様。八百万の神様。」

ひたすら祈った。

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