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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・7 

「・・・わたくしがついていながら、かようなことに・・・」


城へ行き、藩主に事の次第を説明した後、伏したまま大輔は泣きはらした顔を上げられなかった。


重傷を負った貴久の元に駆け戻りたかったが、家老に呼ばれた。


にわかの発作に急死した母親への思い耐え難く、若君は、錯乱したのであろうよ、無理はないと正妻は言い放った。


乳母の息子、盛田大輔は、同道したものの、まだ元服前ということで何の罪咎に問われることも無かったが、母のお福は監督不行き届きでしばしの謹慎を言い渡された。


・・・何かが違うと、誰もが思っていた。


疾風は賢い馬で、城へ行くといえば鞭をくれずともひた走りに駆けたはずだ。


夕暮れ時といえど、あまりに不自然な事故だった。


「疾風は、何かに足を取られたのです。物音に驚くような駄馬では有りません。」


「どうか、どうかお調べ下さい。わたしは、怪しい人影も見たのですっ・・・!」


城代家老が、食い下がる大輔を止めた。


「此度のことは、お袖の方急死の上の若君のにわかの錯乱と相成った。」

「よって、その方は不問になったのだ。」


声音が変わった。


「のう、大輔。これより若様にはそなただけが頼りぞ。」

「お側に、居て差し上げるのだ。」

子供だからではない。

悔しくて、悲しくて、やりきれなくて、涙が溢れた。




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