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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・6 

「貴久さま!」

大輔の絶叫が、闇に吸い込まれた。


全速力で走っている疾風と貴久が闇に溶けた黒い紐に、気付くわけが無い。


疾風がもんどりうって倒れ、貴久は投げ出された。


疾風は、首の骨を折って即死したが、倒れる前に一瞬首を立てて主を守ろうとした。

どうと崩れ落ちる疾風の背からころがり落ちた貴久は、したたかに腰を打ったようだった。


「貴久さま!」

「う・・・」

微かに、呻く声が夜陰に響いた。


まだ、息はある。

「誰か!急ぎ薬師を!」

近くの商家に助けを求め、城と屋敷には使いを走らせた。


落馬は下手に動かすと、命取りになると、武家生まれなら誰でも知っていた。

動転しながらも何とか踏ん張って、大輔は貴久の元に走り寄った。


「す・・・すまぬ。わたしが短慮なばかりに・・・」

なおも気丈に、大輔にわびながら貴久は、痛みで気を失った。

見る見るうちに、血溜まりができた・・・

べっとりと、両の手を血染めにして、まだ元服前の少年には正気でいるのが精一杯だった。



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