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星月夜の少年人形 29 

どうやって自分の部屋へ帰ってきたか覚えていなかった。
朦朧と人垣の中を漂いながら帰ってきた気がする。
余りに思慮のたりない優月だった。「ほんと、世間知らず・・・」と、自嘲するように呟いた。
こんなことを優成が知ったら、なんと言うだろう。

「馬鹿だな、優月。」そう言って優しく抱きしめてくれるだろうか。それとも、誰にでもついていくから、そんな目に合うのだと責めるだろうか。それでもいい、逢いたかった。
通っている高校は制服で知られたし、携帯電話の少ない情報もすべて向こうの手の内にある。きっと連絡をすると言った、少年のきつい眼差しを脳裏に浮かべた優月の足取りは重かった。

「なんという顔をしてるんですか。まだ、体調はよくありませんか?」

不意に、一番会いたくなかった榊原の声を聞いた。

「・・・何が有ったんです?誘拐でもされそうにでもなりました?」

優月は黙ったきり、青い顔を向けて「いいえ。」と、頭(かぶり)を振った。榊原には絶対言えないと思った。
全部抱えたまま、誰も知った人の居ないどこかに行ってしまいたいと思う。いっそ泡沫のように消えてなくなってしまいたかった。
どこか、思いつめた瞳の優月を見て、ふっと榊原は息を吐いた。

「さあ・・・、荷物はまとめてありますから、出かけましょうか。」

さっさと部屋を出てゆく榊原の後を追う優月は、やっと部屋の中に何もないのに気が付く。少ない荷物が残らず痕跡を消していた。

「あの!どこへ行くんですか?」

「本宅です。ある程度のマナーなども、こちらで教えて差し上げたかったのですが、会長がそろそろ我慢できなくなったようです。本日、向こうで対面していただきます。」

「それは、・・・それってお母さんの・・・?」

「そうです、あなたのお爺様と、叔父様がお待ちかねです。よろしいですね。」と、榊原は言ったきり、優月を見つめた。

「いいですか?私が思っていたよりも、はるかにあなたはとても優秀です。流れる土光の血に、自信を持ってください。」

そう言われても、優月のちっぽけな自尊心は、いろいろな場所で日々粉々になってきた。出来る事よりもできないことがはるかに多く、満足に眠れないほど優月は悩んで来た。睡眠時間をどれほど削っても学業は芳ばしくなかったのは自分が一番知っている。

「まあ、優月君の奧床しい所は、上に立つものとしてはある意味、人を惹きつける美徳になるんでしょうね。そんな風に困った顔をされたら、苛められなくなってしまう。やれやれ・・・、もう限界ですかね。優月君、本宅に行く前に、奥の部屋にお客様ですよ。」

どこか寂しそうな、榊原の「限界」という言葉に込められた意味を、優月は聞き逃してしまった。

「お客さん?」

ゆっくりと視線だけを彷徨わせた優月の顔は強張った。緊張した小さな顔がドアの向こうから現れてじっと優月を見つめている。

「兄ちゃーーん!」

「え?・・・塔矢・・・?どうしたの?」

「兄ちゃんが帰って来ないから、会いに来た~~!。兄ちゃん、塔矢がいないと・・・寂しかった?」

その言葉で優月の何かが溶け落ちて、滂沱の涙となる。

「あはは・・・、そっか・・・兄ちゃんが寂しいと思ったのか。そうだよな、ぼくはずっと塔矢に会いたかったよ。塔矢・・・っ!」

「兄ちゃん~~・・・え~ん・・・」

これまでずっと優月の寂しさを埋めてきた小さな欠片が、胸の中で泣きじゃくった。抱きしめた塔矢は、ほんの数ヶ月逢わなかっただけなのに、一回り大きくなった気がした。兄を思いやるほどに・・・。

「兄ちゃん。お母さん、赤ちゃん生まれたんだよ。あのね、中々、兄ちゃんが帰ってこれないからみんなで会いに来たんだよ。お母さんがね、おじいちゃんにごめんなさいって言うって。だから塔矢も一緒にごめんなさいするの。」

「塔矢は何も悪いことない。おじいちゃんには、兄ちゃんが、お母さんと一緒にごめんなさいって言うから大丈夫だよ。」

「塔矢も行く。」

小さな塔矢は、一生懸命優月の背中に手を回して、やっと会えた兄を手放さないように必死だった。
優月の知らないところで、事態は好転しているのだろうか。
塔矢の小さな身体を抱き上げたら、ぐんと重みがあるような気がする。塔矢に勇気をもらった優月は締まった兄の顔になり、榊原に行きましょうと告げた。





(´;ω;`) 「兄ちゃ~ん・・・」


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2 Comments

此花咲耶  

Re: タイトルなし

> おぉ~ 大魔王も 優月が あまりにも 可哀想に思えてきたんだね!

王道ですから!(`・ω・´)
主人公は最後には笑うのです!
>
> 優月の可愛い弟の塔矢が 登場するなんて ありがとう♪。+゚(´▽`)゚+。女喜シ立(≠

わ~い!けいったんさん、塔矢好きだった~~(*⌒▽⌒*)♪「ありがとう~、けいったんさん~」
>
> ごめんよ~ これまでの 悪態を許して おくれよ~大魔王~d(´;ω;`)ウゥゥ

(〃▽〃)…でも、大魔王って呼ぶんだ・・・
>
> でも 大魔王だもんなぁ~この後に どんでん返しなんか あったりして・・・
> ( =_=) ジィ→→→→→グサッ≧Ψ(+Φ∀Φ:)Ψ≦ィヒヒヒヒ。。。byebye☆

(*⌒▽⌒*)♪天使のような、此花ですから信じてね~!
コメントありがとうございました。うれしかったです。

2011/06/09 (Thu) 08:29 | REPLY |   

けいったん  

おぉ~ 大魔王も 優月が あままりにも 可哀想に思えてきたんだね!

優月の可愛い弟の塔矢が 登場させるなんて ありがとう♪。+゚(´▽`)゚+。女喜シ立(≠

ごめんよ~ これまでの 悪態を許して おくれよ~大魔王~d(´;ω;`)ウゥゥ

でも 大魔王だもんなぁ~この後に どんでん返しなんか あったりして・・・
( =_=) ジィ→→→→→グサッ≧Ψ(+Φ∀Φ:)Ψ≦ィヒヒヒヒ。。。byebye☆

2011/06/08 (Wed) 22:37 | REPLY |   

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