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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・2 

領主には本妻が有り、嫡男より三ヶ月前に生まれた貴久は、お家の事情で次男と言うことになっていた。


本より病弱な公家生まれの奥方に、子は望めぬものとして選ばれた健康な側室、お袖には思慮も分別も有った。


奥方様が、お産みになった吾子さまを、ご嫡男とされるのが寛容と言う家老の言に、

「わたくしも、お家のためにはそれがよろしいと思う。」

と微笑んで生まれたばかりの自分の子供にこういったのだ。


「貴久。兄上お誕生ならば、一の家臣となるように、懸命に励むのですよ。」


「どうぞ、お心安らかにご出産あそばしますように。」


側室からの思わぬ言伝に、奥方はたいそう喜んだそうだ。


「遠く京を離れてこの地へ参って、今日ほど心穏やかな日はない。

お袖に礼を申す。」


二心無くそんな風に思えばこそ、お袖は厳しく貴久を仕込んだ。


文武両道、中でも一番に人の道を説く、お袖の方の教えを守り尾花貴久は、領主の病弱な惣領よりもはるかに、家臣からの人望も厚く聡明な若者になってゆく。

凛々しい若武者の、それが悲劇の発端なのかもしれなかった・・・・


前藩主の法要で、もの心付いてから初めて貴久は、父親との対面を果たす。


側室腹の身をわきまえた行為では有ったが、成長した貴久の思わぬ美丈夫ぶりに、藩主は相好を崩した。


「おお、貴久か。これへ、これへ。」


もっと近くによって顔を見せてくれと言う藩主に、本妻の険しい視線が注がれた。


公家育ちのわが身に似て、線が細く連歌は上手く作れても、武門の方はからきしの嫡男に、三里藩主は時々ため息を付いていた。


「確かに、関が原の戦も終わり、もう大戦にはなるまいがせめてもう少し剣術に励ませよ。」







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