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お礼ss 夕暮れの色鉛筆 

夕暮れの空の色が、一番好きだ。

ぼくは色鉛筆を取り上げた。
青く澄んだ空にたなびいた白い雲が、少しずつ薄桃色に染まってゆく。
橙色のお日さまが、西の山に沈む直前に一際大きくなって別れを告げる。
スケッチブックの中に、色鉛筆が走って、お日さまの欠片が散らばってゆく。

「なあ、また描いてるのか?」
「あ、うん。この時間の空の色が一番好きだから。」

見せてと言って、スケッチブックを眺める一つ上の君の目はとても優しい。
その柔らかな瞳が、いつかぼくを見てくれればいいのに・・・。
しばらくして君はこういった。

「俺、お前の描く夕焼けの絵、すげぇ好き。何かさ、胸の中の深いところが温かくなる気がするんだよ。薄暗い道を歩いている時に、やっと見つけた街燈みたいな感じかな。すげぇ、ほっとする。・・・不思議だよな。」

ぼくの絵が、君の胸の中に明かりになって点(とも)るなんて、なんて素敵なことだろう。
その頃のぼくは、毎日君のサッカーの練習が終わるまでずっと土手に座って、河川敷グラウンドでボールを追う君を見つめていた。
スケッチブックと、虹色の水性色鉛筆を持って・・・。

*******

「へぇ・・・、こんなのも描くんだ・・・?」

クローバーの葉の上で飛翔寸前のてんとう虫に目を奪われていた僕は、背後から忍び寄ってきた数人に気が付くのが遅れた。
だから、決して見られてはいけない夕焼け以外の絵を、うっかりと広げていたんだ。
彼等は、ぼくの秘密を手にしていた。

「あっ!やめて!」
「他のも見せろよ。」
「やだ、返して!みないで、それは違うの・・・違うから!」
「いいから、よこせって。」
「・・・やだ~。」

バサバサとスケッチブックに挟んだぼくの秘密がこぼれてゆく。
大好きな夕焼けのグラウンドを走る君の横顔。君の手。君の脚。
・・・そして、想像で描いた君の背中。君の鎖骨。君の下肢。
何も着けていない、君の後ろ姿がそこに描かれていた。
ぼくの欲しい君が、スケッチブックの中の夕焼けの中を躍動していた。

「気色悪(キショ)い・・・、お前、こんな細かく何描いてんだよ。」
「これ、間中先輩だろ?お前が描いてるって、先輩は知っているのか?」
「知るわけないっしょ?ねぇ・・・?」
「知ったら、なんて言うかな~・・・?」

耳元で誰かが、告げる言葉はぼくを恐怖させた。
ぼくはその場に凍り付いて、そこにいるサッカー部の人たちが早く去ってくれることだけを念じていた。
びり・・・と、音を立てて数枚の絵が裂かれて、紙吹雪になってゆく。
裂かれて悲鳴をあげたのは、キャンソン紙ではなく、秘密を暴かれて怯えるぼくの心だったかもしれない。
風に飛ぶ橙色の紙片。
夕焼けを見ながら交わす優しい時間も、もうお終いだ。
笑いながらぼくを引き裂いてゆく手元を見ながら、そう思った。

*******

広がった紙片を泣きながら拾うぼくの手元に、見慣れた運動靴が当たった。

「ごめんな。あいつら、締めといたから気にするなよ。」
「え・・・?何で?」
「俺、お前が俺の事描いてるの、ずっと前から知ってたよ。」

ぼくは、濡れている顔を思わず上げてしまい、どうやら先輩をひどく困らせたみたいだった。
陽に焼けた笑顔が涙で霞んで、輪郭がにじんだ。

「うれしかったんだ。だって描いてる間は、俺の事だけ見てるってことだろ?」
「怒ってるよね・・・?ごめんなさい。」
「なぜ・・・?」
「だって・・・あの・・・断りもなく、想像で・・・裸の絵とか、描いたから。気色悪いって・・・思うよね。」

間中先輩はふっと軽く息をつくと、何故だか思いがけずこの上なくうれしそうに笑った。

「なあ・・・。全部、脱いでやろうか?」
「え・・・?」
「描きたいんなら、見せてやるよ。ただし、二人っきりな。」
「あの・・・?怒ってないの?」

ぼくの好きな夕焼けを背に、ぼくの好きな間中先輩が笑う。

「鈍い奴だな。お前が俺を見つめるたび、俺の心臓がどれだけバクバクしていたか見せてやりたいって言ってるの。」

余りの幸せに、視界が薔薇色に染まった。
間中先輩は残った絵を拾い集めぼくに手渡すと、受け取ったスケッチブックごと、ぼくをぎゅっと抱きしめた。
鼻腔に拡がるシトラスの香りが、信じられない・・・。

「お前、忘れてるけどさ・・・俺、うんとチビの頃にも絵を描いてもらったことあるんだ。」

ぱたぱたと涙を零し続けるぼくの耳元に、間中先輩は秘密の名前を告げた。
そうだ・・・うんとチビの時通っていた保育園で、『お絵かき』ばっかりしてるからって、お友達にスケッチブック取られたことあった。
助けてくれたいっこ上のお兄ちゃんに、ぼくは正義の味方、ウルトラマンの絵を描いたんだ。

「俺は、いつだってお前だけの正義の味方になってやるって、約束したはずなんだけどな。」
「うん。ウルトラマン。」
「行こうぜ、星の子Chobon。」
「うん。」

それ、たぶん間違ってると思うけど・・・いいよね?
柔らかな橙色の光の中で、間中先輩がぼくだけを見つめる。
その視線で、ぼくはぼくの胸の中が熱くなるのに気が付くんだ。
胸の中の深いところが温かくなる気がする。

夕焼けの長い影が、一つになった。


                                   ―完―





このお話は、素敵絵と、お話しと、漫画のサイト様。

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カロリーハーフのchobonさまから戴いた、嬉し恥ずかし4コマ漫画へのご返礼として書いたものです。
拙い短篇ですが、戴いてとても嬉しかったので、感謝の気持ちを込めました。
chobonさまのお宅にも、載せてくださっています。ありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

色々、脳内を探したのですが符合するいいアイデアが見つからず、禁断の「星の子チョビン」ネタです。
いいんですか~?ばれちゃいますよ~・・・ですって。。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。ウワアアーーーン・・・・
此花、お礼を言うのに身体を張ってしまいました。(´;ω;`)←うっ・・うっ・・・ 星の子ショボン・・・




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2011/05/10 (Tue) 22:24 | REPLY |   

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