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杏樹と蘇芳 13 

BL KANCHORO・春企画参加作品 

【杏樹と蘇芳 13】



平安のころの話である。



月明りの下、杏樹は蘇芳の眠る奴婢の小屋へと入った。
皆、きつい労働に泥のように眠り、杏樹の気配には誰も気が付かない。

「蘇芳・・・」

汗ばんだ額に、張り付いた髪をそっと払ってやる。
何も知らない蘇芳に永の別れを告げ、杏樹は懐から金無垢のご本尊、観音様をそっと取り出すと弟の懐へと忍ばせ願いを口にした。

「どうぞ、蘇芳をお守りください。蘇芳がかぶるすべての災厄は、わたしにお与えくださいますように・・・。」

もう二度と会えないかもしれない愛おしい弟の、顔をまぶたに焼き付けて杏樹は奴婢の小屋を後にした。

*******

翌日、粗末な朝餉を取った奴婢が、それぞれの仕事に取り掛かる。
蘇芳もまた、背負い梯子を背に萱を刈る為に、山へと向かった。
塩の仲買人は、山の中腹に配下の者を潜ませ、蘇芳が来るのを待っていた。
丈の高い萱を刈る蘇芳を手招きし、用意した新しい着物を手渡すと、親子の旅人のようにして、一目散に山を下った。

「杏樹殿に頼まれたのだ。さ、早う、父御のところへ届けて進ぜる。」

夢のような心持で、蘇芳が仲買人の船に藻塩と共に乗った。
船が陸地をかなり離れたころ、見覚えのある商人が、首尾の上々を告げに来た。

「良かったのう。どうやら追っては来ぬようだ。」

蘇芳は晴れ晴れとした顔で聞いた。

「商人さま。このような日が来るとは思いもよりませんでした。」

「兄上はどこなのですか。兄上に早く会いたいです。」

「・・・杏樹殿は、居られぬ。この船は蘇芳殿だけを乗せて奥州へ行く。」

蘇芳は踵を返し、迷うことなく船べりへと向かった。
思わず、海に飛び込み里へ帰るつもりだった。

「これ!何をする。」

「兄上を残し、蘇芳だけが父の所へ参るわけには・・・っ!わああぁーーーーっ!」

板子の上に泣き伏した蘇芳を宥めて、商人は杏樹の決意を告げた。
蘇芳が復職した父親の元で、一人前になり自分を迎えに来るまできっと待つと、杏樹は伝言を残していた。
気休めのような言葉に、蘇芳は顔を上げた。
杏樹の火傷を癒やした懐の観音像に、思わず涙があふれる。

「兄・・うえ・・・っ・・・」

おぼろげに聞いた兄の声、あれは夢ではなかったのだ。

『どうぞ、蘇芳をお守りください。蘇芳がかぶるすべての災厄は、わたしにお与えくださいますように・・・。』

潮風に弄られながら、蘇芳は遠くなってゆく稜線を眺めた。
必ず戻ってまいります、どうぞそれまでご無事で・・・と、船べりを掴み叫んだ。

「兄上――――っ!!杏樹兄さまーーーーっ・・・」





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BL KANCHORO・春企画参加作品です。




(´;ω;`) 「・・・ううっ・・・」

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4 Comments

此花咲耶  

塾長さま~♪

> 弟は無事父のもとへ辿り着くのでしょうか?

船の上で泣き伏している蘇芳は、きっと父上に会えると思います。

> そして杏樹は?

(`・ω・´)やばす~・・・

> でも次郎さんいい人みたいだし添い遂げてみるのもいいかも・・・
> でも叔父さんなのかもしれないのね・・・
> 山椒大夫はお父さん?

伏線をこれから拾ってゆきます。
夕霧さんと黒田てんていもいい感じになってきましたね。
わくわくしています。
幸せにしてあげてください。
コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪


2011/05/01 (Sun) 20:43 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

わ~い! (*⌒▽⌒*)♪

杏樹が、好みどストライクですか?すごく、うれしいです。
原作はあまりの結末ですが、何とかいい感じに読後感のいいようにと思っています。

続き楽しみ…と言ってくださってありがとうございます。
後、もう少し頑張ります。(*⌒▽⌒*)♪

2011/05/01 (Sun) 20:35 | REPLY |   

Rink  

とうとう離れ離れに・・・

弟は無事父のもとへ辿り着くのでしょうか?
そして杏樹は?
でも次郎さんいい人みたいだし添い遂げてみるのもいいかも・・・
でも叔父さんなのかもしれないのね・・・
山椒大夫はお父さん?
ここまで一気読みしてしまいました。
ここのとこポチ逃げですんません。
次郎さん早く帰ってきて・・・

2011/05/01 (Sun) 18:30 | REPLY |   

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2011/04/30 (Sat) 23:13 | REPLY |   

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