FC2ブログ

金銀童話・王の金糸雀(三部) 6 【最終話】 

半球型のドームが歌劇場の中心に設えられ、青い天国の門を背景に、金で塗られた天使達の彫刻が飾られた。
天井には幾重にも白いアーチが連なり、つる薔薇を這わせたブランコに乗って、花形男性歌手は気高い英雄の姿で登場するのだ。
歓声と喝采の中銀色のカストラート、ミケーレの遅れたデビュー公演は華々しくイタリア国内で行われた。
各市でその優雅な天使の姿と、姿から想像できない驚異的な声量に人々はため息し歓喜することになる。

しかし教皇の寵愛を受けるカストラートは、人々の熱狂に長く応える事はなかった。
しばらく各劇場で歌った後は、礼拝堂で静かに神を称えるのを好み、派手な表舞台に出ることは希だった。
礼拝堂で歌うカストラートの姿も、本人の願いで格子で遮り見えないようにされていた。
それでも、銀色のカストラートの噂を聞き礼拝に訪れた善男善女は、皆頭上を見上げ、降り注ぐ天使の歌声に魂を揺さ振られる気がするのだった。

誰もが、教皇の為に歌っていると信じていたがカストラート、ミケーレに聞こえる声は、彼だけのものだった。
甘く囁く吐息で終わる「メッセ・ディ・ヴォーチェ」のように、耳元で繰り返される声をうっとりと聞いていたのだった。
彼がこの世で最後まで求めた人の、耳に残る最後の言葉。

「歌え、金糸雀・・・余のいなくなった後も。」
「余の愛する、アナスタシオ・・・」

何度も繰り返された囁きが甘く聞こえるたび、今はない人に向かって切ない思慕が溢れるのだった。




********************************


終わりのお話。


・・・ぱたり。
金色のお姫さまが、寝物語にねだった絵本は、今夜も開かれました。
女官がしおりを挟んであった、もうひとつの物語のページを広げました。
精密なペン画で描かれた美しい王子の出てくる、「王の金糸雀(カナリア)」という名のお話の続きを読み始めました。

『金糸雀にあいたいと願った、王さまの願いはとうとう叶ったのでした。
明日の朝、処刑が決まった王さまの枕辺に、可愛らしい声の金糸雀は逢いにきたのでした。
そうして弱って細くなってしまった王さまを抱きしめて、金糸雀は言ったのでした。

「ずっと、おそばにいます・・・。」

王さまは喜んで、金糸雀の腕を取るとそのまま固く目を瞑り天国へ旅立ちました。
王さまの忠実な司令官が、胸の上で十字を切り皆の涙が王さまに注がれると、王さまの姿は一羽の夜鳴き鶯(ナイチンゲール)に変わったのでした。

「王さま。」

驚いた金糸雀の肩に、そっと止まると小首をかしげて小鳥は、綺麗な声で一緒に歌うようにさえずったのでした。
王の金糸雀と呼ばれた若い歌手は、白いつる薔薇の巻きついたブランコに腰掛けました。
月光を吸ったような銀色の目映い髪の金糸雀は、肩から指先に遊ぶ小さな小鳥に向かって、優しく木陰の歌を歌い始めました。
小さな小鳥は薄く目を細めて、とても安らかだったのです。

「王さま。」

金糸雀は、それからもずっと微笑みの中で、小鳥の王さまと過ごしました。

いつしか長い時間が経ち、王さまのお城も朽ち、誰もいない廃墟となりました。
優しい木陰を作ってくれた木々は育ち、今も変わらず梢をわたる風に、青い若葉を揺らしています。
この地を訪れた、巡礼の旅人が見上げた枝には、黄色い小さな金糸雀と夜鳴き鶯が並んで、愛を囁くように綺麗な声で歌を歌っていたのでした。

疲れた旅人は木のそばでまどろんで、夢を見ました。


すみれ色の瞳の銀色の髪の王子が、サンザシの枝に髪を捕られて困っているのでした。

「王さま、お助け下さい。」
「サンザシに、囚われてしまいました。」

優しい手が伸びて、幼い王子を抱き上げた王さまが笑いかけます。

「歌え、金糸雀。」

可愛らしい銀色の王子さまはにっこりと微笑んで、旅人に向かって木陰の歌を歌いました。

眠りを誘う、温かいミルクをこくりと飲んで、金色のお姫さまはやっと安心したのでした。

「王さまは、夜鳴き鶯になって金糸雀と暮らしたのね。」
「ええ、そうですよ。仲良くお話をするように同じ旋律を歌ったのです。」

女官は額に張り付いた、柔らかな巻き毛を払ってやると耳元にそっと囁いたのでした。

「ほら、お姫さま。」
「今日も、窓辺に金糸雀が来ましたよ・・・」

伸びたサンザシの枝に、二羽の小鳥が仲良く首をかしげて止まっているのでした。


            

金銀童話・王の金糸雀 全三部 ―完―




長らくお読みいただき、ありがとうございました。

お時間がありましたら、「あとがき」を書きますのでお読みいただけたらと思います。

ランキングに参加しております。応援していただけたら嬉しいです。此花咲耶

<br />にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村





関連記事

0 Comments

Leave a comment