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金銀童話・王の金糸雀(二部) 12 

躊躇(ためら)う事無く、王さまの忠実な司令官は、腰の刀で大きな錠を破壊すると駆け寄った。

「金糸雀――っ!?」

銀色の乱れた髪をかき上げると、焦点を結んでいない瞳は見開かれたままで、思わず王さまの忠実な司令官は、頚動脈に指を添わせて脈を取った。
金糸雀は、告げられた信じがたい真実に、目を見開いたまま気を失っていた。
王さまの忠実な司令官が、急いで気付けの為の強い酒をあおり口移しに流し込むと、激しくむせ返って気が付いた。
行き場のない思いが胸中で渦を巻いていて、このままでは金糸雀がどうにかなってしまうだろうと思った。

可哀相な金糸雀は、王子という身分に生まれながら、これまでずっと過酷な運命に翻弄され続けていた。
これまで何年もの間暮らしていた音楽学院も、カストラートになるためだけに、囚われているようなものだった。
王さまの忠実な司令官は、もう一度喉許に強い酒を送ると、鳥籠から金糸雀をそっと抱き上げ、自室に運び込んだ。

王さまの忠実な司令官の居室は、誰も訪れるものがいない北の塔の一角にあった。

「わたしも、おまえほどではないが、この森の先王には散々な目に合わされた。」

語りかけると、寝台に横になったままの金糸雀が、空ろな顔を向けた。

「王は、わたしの腹違いの弟なんだ。」
「わたしの母は、弟の母親と違って身分の低い女だった。」
「おまえのように舞台で演じる姿を、先王が見初めたのだ。血は争えないな。」

金糸雀は目を見開いてはいましたが、王さまの忠実な司令官の、慰めの打ち明け話は聞いていなかった。
壁の一点をじっと見つめる、思いつめたすみれ色の瞳に気が付いて、王さまの忠実な司令官は思わず優しい声をかけずにはいられなかった。

「・・・どうして欲しい?」
「金糸雀。願いを叶えてやるから、言ってみろ・・・」

王の忠実な司令官が金糸雀の両頬に手をかけると、ほろとすみれ色の両の目から、堰を切ったように涙が溢れ落ちてゆく。
後から後から、もうとめどなく涙はこぼれ落ち、声にならない嗚咽を噛み締めて、薄い肩が弱々しく震えていた。
王さまの忠実な司令官の腰の重い剣を引き抜いて、逆さまに突きつけると、思いつめた金糸雀は咽びながら望みを告げた。

「・・・今すぐ・・・この心臓を突いて、殺して・・・。」
「お願い、殺して。」
「・・・殺して・・・」
「・・・殺して・・・」

緑の国の王さまが苦しむのを、これ以上見たくないと、胸をかきむしるようにして、殺してくれと・・・金糸雀は何度も繰り返し、懇願するのだった。
父王が裏切ったあの日から、ずっと居なくなりたかったと金糸雀は王さまの忠実な司令官に訴えた。

「何故、あの手術に失敗しなかったんだろう・・・」

金糸雀は、呻くように嘆いた。
気付けに飲ませた強い酒が廻り、隠れた本音を言わせたのだろうか。

「見た目は天使のようでも、カストラート・ミケーレは、乞われれば誰にでも種を抜かれた傷を見せるただのふしだらな去勢された雌鳥でしかないのに・・・。」
「取り澄ましていても、紳士も淑女も、貴族も教皇もカストラート・ミケーレを裸にして、夜ごと、同じ事を言うんだ。」
「手術は、どんな風に行われたの?傷はどうなってるの?、さあ、開げて見せてみろと、ベッドの上で言われ続ける実態を、貴方は知らなかったでしょう?」

濡れた顔を真っ直ぐに向けて、その胸元に抜き身の剣を突きつけたのだった。

「それとも、あなたも青い胡桃が見たい・・?」
「あなたの手術した、傷痕を見せてあげましょうか?」

いつも涙ぐんでいるか、穏やかに微笑んでいるかしか印象のない金糸雀の激しい感情に、王さまの忠実な司令官は驚いていた。

「幼いそなたの命を惜しみ、カストラートにしたわたしを恨んでいるのか?」
「わたしは、そなたを失いたくないと思っていた王の願いを叶えたのだ。」

思いがけず王さまの忠実な司令官の本心を知り、ふと胸の痛みを覚えたとき、金糸雀は動揺して大きくかぶりを振った。

「いいえ・・・いいえ。」
「違う。違います!・・・・あなたには、心から感謝しています・・・王子でなくなったわたくしには、歌しかなかったのですから・・・」
「生きてゆく道を、間違いなく示してくださったのですから。」

王さまの忠実な司令官は、弟が王に選ばれて玉座に座った日の事を、思い出していた。

「そうだ、あの日からわたしも影となり、自分を殺して思いを秘めて生きてきた。」
「わたしが先代の王から授かった役目は、王の「盾」になることだったが、そなたも同じように天使となった時、自分自身を葬り去ったのだな。」

そういいながら、カストラートが重さに固く筋を浮かせた細い腕から、ゆっくりと剣を取り上げた。

「王もわたしも、そなたを去勢された雌鳥などとは思っておらぬ・・・」
「生まれ変わった、美しい天使のミケーレ・・・。地上の誰もが、おまえを求めて愛するだろう。」
「時には、気に染まぬ受難もあるだろうよ・・・だがそれもそなたを愛すればこそだ。」

王さまの忠実な司令官の無骨な胸に、慰められるように抱かれて、やりきれない思いでいっぱいの金糸雀だった。
うっかり吐露してしまった、自分の気持に戸惑って考えはまとまらなかった。
残されたお后さまの心を粉々に打ち砕いて、王さまを悲しませたアレッシオ殿下によく似た、自動人形の注文主は、恐れていた通り自分の父親だった・・・。

姿を変え、密かに生きてきたアナスタシオ第一王子と呼ばれたカストラートは、最後にもう一度だけ、緑の森の大好きな王さまとお后さまのために、歌おうと決心した。

贖罪のために。







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2 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

王子でなくなってしまったら、彼には歌しかありませんでした。
何が一番いいのかわからないまま、でもきっと≪愛≫はあります。(`・ω・´)
個人的に幸せになるのは厳しそう・・・きゃあ、やばす~

綺麗で切ない童話になればいいなと思っています。
コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/04/09 (Sat) 21:54 | REPLY |   

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2011/04/09 (Sat) 18:58 | REPLY |   

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