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金銀童話・王の金糸雀(二部) 5 

一夜の遊び相手としては最高の相手でも、結婚相手となると後の世に子孫を残せないため、周囲の理解を求めるのも難しく、カストラートはあくまでも特殊な存在だった。
小鳥のように無垢だったミケーレも、成長するにつれやがて少しずつ世間の事を理解するようになってゆく。

貴族に呼ばれる宴席での飾らない会話の中に、隠された隠微な「天使」の真実も見えるようになって、本当の「天使」の意味も知るのだった。
多くの貴族や高位聖職者に囲われ、美しく着飾ったカストラートたちは、皆「天使」と呼ばれ閨房の中で大切にされた。

彼等は英雄を演じる時、かつらをかぶり美しく化粧をし、青い刺繍の入ったタイツをはいて、望まれるまま高い声で歌った。
高価な宝石で飾られた天使達は、夜毎、優雅な立ち居振る舞いで科を作り、貴族階級の貴婦人達の身を飾る宝石のように扱われた。
誰からも愛される天使は、広く誰をも愛さなければならない。
乳白色のミルクの中に広がる血の中から生まれた「天使」は、どんなにひどく汚されても、魂は無垢で純白でなければならない。
それこそが、神に選ばれた「天使」の定めだった。

*******

最初の音で、ミケーレははっと我に返った。

懐かしい風景が、どこか感傷的にさせてしまい、大事な仕事の席でぼんやりとしていたようだった。
繰り返される前奏のチェンバロの音に合わせて、どこまでも清らかな澄み切った歌声が流れてゆく。

カレスティーニ公の葬儀に参列した人は、まるで天上から雲の間をすり抜けて、天使が参列者に哀しみの歌を降り注いでいるように思った。
ステンドグラスの嵌った上部にある回廊は、見上げた場所には細かい細工の格子が入っている。
下からは歌う聖歌隊が見えないつくりになっていて、厳かな宗教劇のように葬礼の儀式は進められたのだった。

そしてミケーレが死者のために悲しむ聖母の歌を独唱したとき、懐かしい人が参列者の中で回廊を見上げていることなど歌っている本人は夢にも思わなかった。
カレスティーニ公の遠い親戚が、黒い髪をはらうと小さく呟きました。

「あれは・・・金糸雀・・・?」
「歌っているのは、わたしの金糸雀なのか・・・?」

********

葬儀の終わった今、ミケーレはターコイズの式服をねずみ色の暗い外套で覆って、足早にカレスティーニ公の屋敷から学院へと帰りを急いでいた。
卒業後、舞台に立つようになるまでは、少しでも人の目に触れまいと思っていた。
それが余計にカストラート・ミケーレの神秘性を生むなどとは、思いもよらない。
どこか遠いところへ行くその日まで、静かにしていようと思い詰めていた。

葬儀の後、他の子供達は、領主の奥方と給食よりもはるかに豪勢な食事をいただき、この場に呼ばれた感謝を繰り返しているはずだった。
彼等とは行動を別にし、待たせておいた目立たぬ馬車にそっと乗り込もうとしたとき、ふと視線を感じてミケーレの足が止まった。

黒い馬の影からじっと見つめる懐かしい黒髪の貴公子の姿に、危うく叫んでしまいそうだった。
誰よりも逢いたくて、そして恋しくて・・・恐ろしい相手がそこにいる。

「わたしの、金糸雀。」

暗い瞳の男が低い声で、呼びかけました。
何故・・・?
緑の森の国のお城にいらっしゃるはずの王さまが・・・?
総毛だったミケーレには、こんな所に王さまがいらっしゃるのか理由がわからなかった。

「金糸雀・・・。」

暗い外套からそっと伸ばされた筋張った手が、ミケーレに触れようと伸びてくる。

「い・・・やあーーーっ!・・・」

早鐘のように鳴る心臓をなだめながら、ミケーレは逃げるように馬車の座席に滑り込んだ。

「早く!馬車を出してっ!」

すっかり動転してしまったミケーレは、そう叫んだきり床に突っ伏してしまい震えていた。
でも・・・馬車は動くことなく、馬はのんびりと飼い葉おけに頭を突っ込んでいる。
御者が馬に鞭を振るうより早く、扉が開いて、ミケーレの良く知る黒髪の男は客室へと入った。
震えるカストラートの背からそっと長い指が伸びて、ねずみ色の目立たぬ外套の頭巾を脱がせると、光を弾いて長い銀色の糸の束が、こぼれ出た。

「やはり、そなたであったか。」
「変わらぬな・・・」

年を重ねても、少しこけた頬はミケーレの好きな、変わらぬ王さまのものだった。
狭い馬車の中で後ずさるミケーレに、逃げ場はなくミケーレは祈りをささげるように指を組んで跪いた(ひざまづいた)。

食堂の片隅に追い詰められた、ハツカネズミのように震えるだけになってしまったミケーレは、数年前に捨てたはずの名で親しげに呼ばれた。

「わたしの、金糸雀・・・」
「ああ・・・王さま。」

どれだけその声で、呼ばれたかったことか。
ミケーレは打ち震えて、言葉をなくしたまま床に這いつくばっていた。

「わたしが、共に眠るのを許した金糸雀。」
「大理石の床ではなく、今度は泥だらけの木の床に座ればいいのか?」

ご自分の上等の羅紗のマントを広げると、その中にミケーレはふわりと包み込まれた。
腕の中で懸命に許しを請い、学院に帰してくれるように頼んでみても、王さまはミケーレを堅く抱きしめて離さなかった。
きゅと抱きしめられて、懐かしい髪の匂いで鼻腔が満たされたとき、遠い日の朝目覚めたときを思い出し静かに頬は濡れた。
王さまは耳元でこの上なく優しく、囁いた。

「帰っておいで、金糸雀。」
「わたしの城に。」
「・・・緑の森のある、今や、魔王と魔女の住む恐ろしい廃墟に・・・髑髏(どくろ)を敷きつめた墓場のような大広間に・・・」

ミケーレは身を捩りましたが、硬く縛めるように回された腕から、逃れる術を知らなかった。

動き始めた馬車を操るのは、王さまの忠実な司令官だった。





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2 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

どうかみんなが幸せになりますようにと思いながら書いてます。(`・ω・´)
ほんとか~

これからセクスィ~も入るはずなので、無いセクスィを振り絞ってがんばります。
コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/04/02 (Sat) 03:36 | REPLY |   

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2011/04/02 (Sat) 00:58 | REPLY |   

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