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金銀童話・王の金糸雀(かなりあ) 11 

注:カストラートになるための手術描写があります。作品としては外せないので、あえて書いてあります。
残虐な表現ではありませんが、痛いのは苦手、精神的に無理という方は、どうぞこのまま閉じて二部からお読みください。
今回あげました文は、そのまま削っても前後が通じるように直しました。   此花咲耶
 


バロックオペラなどに多く見られる女性役、天使役、少年役は、過去にはすべてカストラートと呼ばれる男性の去勢歌手が歌っている。
絶大な人気と、超絶技法で、当時教皇さえ動かすほどの、人気を集めたカストラートになるしかなかった王子と、敵国の王の物語。
歴史の仇花として大輪の華を咲かせた、カストラートの名を継ぐ者は、今や人道的な見地からもこの地上に存在しない。



手術台の上のミケーレは、血の気を無くし浴槽の牛乳のように純白の肌を晒していた。
手術台の頭が低く下げられ、身体が逆に向けられると、子羊の皮が準備された。
声を上げないように、皮で顔が覆われると頸部が強く圧迫された。
酸素を求め喘ぐ、気を失う寸前を逃さぬように、準備は整えられていた。

小窓から密かに様子を伺いに来た教皇が、満足げに頷くと「神との契約」の合図をした。
この幸運に、聖職者は神を称えずにはいられなかった。
以前から、名を伏せた王子を手に入れたいと願っていた。
戦乱を避ける少しの間、より抜きの聖歌隊の中に隠されて、神と自分のために美しい声を響かせていた王子がとうとう手に入るのだ。
そのために、すべてを秘密裏に行うと聖職者は司令官に誓った。
求められるままに、新しい名前と経歴すら用意した。

医師の手術刀よりも鋭利に手入れされた、忠実な司令官の光る腰刀が炎で焙られた。
手術台のミケーレの開かれた足の間にある小さな青い胡桃に切っ先が埋まり、ぷっと血の玉を転がすと傷を作った。
一瞬のけぞって、身体を硬直させたミケーレが、激しい痛みに意識を手放したのを見るとすぐに慎重に二つの子種が取り出され、施術は瞬く間に終了した。

身体を清める浴槽の白い乳が、少年の多量の血で濁り、全ては終わった。
少年のままの澄み切った甘美な天使の声は、こうして与えられる激しい痛みと牛乳の中で守られたのだ。
ミケーレの青い胡桃は、中身を失って薄くなり腹に張り付いていた。
司令官は、ほっと息を吐くと、少量の血に濡れた腰刀を拭った。

これから新しい人生が始まる。
音楽学院で6年もの長い教育期間を経た後、青年の力強い豊かな声量、女性の高音域を全て手に入れて、天才カストラート歌手ミケーレは人々の賞賛と喝采を浴びることになる。
「天使の声」(カント・アンジェリコ)と人々が称える奇跡の歌声が、再び緑の森の城で響くのはまだもう少し先の話だった。

手術後のミケーレには、縫った傷が癒えるまでしばらく医師の手当てが必要だった。
別れ際、高熱に浮いた汗と、涙で濡れたやつれたミケーレの頬を、王さまの忠実な司令官がそっと撫でた。

「生きろ・・・。」

青よりも深い悲しみを称えたすみれ色の瞳が、焦点を結ばないまま、じっと空(くう)を見つめている。
その目は、何も感じず何も映していなかった。
どうぞ、主のお側に連れて行ってくださいと、聞き取れないほど小さな声でうわごとが繰り返されているのを聞き、王の忠実な司令官は哀れに思った。
見つめる先の空間には、大好きな王さまとお妃さまがいて、自分に微笑みかけている。

「そなたの歌を聴きに来る。金糸雀(カナリア)・・・」

耳朶に届いたその名は、王とお后さまを思い出させ、胸が苦しくなるばかりだった。

「・・王さ・・・あぁ、お許し・・ください・・・お后さ・・・」
「どうぞ、この身を裂いてくださ・・・そして、血をアレッシオさまのお墓に・・・」

初めて出逢った教会で、歌を聞いて涙を流してくれた多感な王さまに、良く似た忠実な司令官の声に反応したミケーレは、無意識の中でも許しを口に出していた。
ほんの少し微笑んで、王さまの忠実な司令官は思いがけず手を伸ばし、唇をそっと銀色の髪に落とした。

「いつか・・・。」

ぱたりと重い扉が閉じられ、緑の森の城と、過去の全てに決別をしたミケーレは、この日から音楽学院で孤独に生きてゆくことになる。
固く閉じられた瞳から、諦めと決別の涙が一筋こぼれた。

こうして、湖の国のアナスタシオ第一王子は、人々を熱狂させるカストラート、ミケーレとして生まれ変わったのだった。


もし音楽が愛の糧なら 歌ってください

わたしを喜びで満たすまで

聴き入るわたしの魂は 飽くなき歓喜へと誘われ

あなたの瞳 あなたの物腰 あなたの言葉が

あなたの何もかもすべてが 音楽であると証しする


歓喜はあまりに激しく 襲わんばかりに耳目を奪い

五感の全てが満たされる 

でも その歓喜の源は ただ音楽だけ

わたしはあなたの魅力で死んでしまうでしょう

あなたがその腕に わたしを救ってくれないのなら


ヘンリー・パーセル歌曲集「コメス・アモリスⅣ」より

高野史緒 訳


                           
                              【第一部 完】




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6 Comments

此花咲耶  

びびさま

> きっとイタイんだろうな~思いましたが、大事なとこですからスルーしませんでしたよ。

。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。痛い描写、書いてしまってごめんよ~
でも、そうなの。大事なところだったの。

> 。・゜・(ノД`)・゜・。大きく、本当に大きく運命がカーブしてしまいましたね( i _ i )。
> 金糸雀からカストラート「ミケーレ」となった彼の今後も見続けますからね。(/ _ ; )

ありがとうございます。(`・ω・´)「ミケーレとして、音楽の勉強を頑張ります!」
>
> 王様と、壊れてしまったお后さまも心配です。

深い愛情を持った人は、ときどきこうして愛に呑み込まれてしまいます。悲しい・・・(ノд-。)

> セクスィー増量(?)は楽しみです。

(°∇°;) …増量…あ、しまった~、約束してしまった。
やばす~
え~と…愛ありの描写テクは皆無に近いですが、頑張ります~(*⌒▽⌒*)♪

2011/03/26 (Sat) 09:45 | REPLY |   

此花咲耶  

千菊丸さま

> 亡国の王子からカストラートへの転身・・アナスタシオことミケーレの新しい人生は始まったばかりです。
> これから彼の半生はどう展開してゆくのでしょうか、気になります。

BGMは天使の歌声、リベラを聞いています。
大人になったので、今度はカウンターテノールのCDが流れています。
カストラートのミケーレは、これからきっとたくさん歌います。

お読みいただきありがとうございます。
コメント頂けてうれしいです。がんばります(*⌒▽⌒*)♪

2011/03/26 (Sat) 09:39 | REPLY |   

此花咲耶  

けいったんさま

> 王子アナスタシオとして 囚われの金糸雀として そして カストラートのミケーレとして...
>
> 三度の人生を 歩むしかなかった彼に いつか 本当の幸せが来る事を 願わずにはいられない。
> ビェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!...byebye☆

運命に翻弄される王子さまです。
今日は痛かった~(*/∇\*) キャ~!←書いといて

どの人生が一番幸せだったのか、結局は最後になってみないとわかりません。
でも、いつか幸せになるはずです。(`・ω・´)←ほんとか・・・?

コメントありがとうございました。うれしかったです(*⌒▽⌒*)♪

2011/03/26 (Sat) 09:31 | REPLY |   

びび  

見とどけましたよ( i _ i )

きっとイタイんだろうな~思いましたが、大事なとこですからスルーしませんでしたよ。
。・゜・(ノД`)・゜・。大きく、本当に大きく運命がカーブしてしまいましたね( i _ i )。
金糸雀からカストラート「ミケーレ」となった彼の今後も見続けますからね。(/ _ ; )

王様と、壊れてしまったお后さまも心配です。
セクスィー増量(?)は楽しみです。

2011/03/26 (Sat) 07:16 | EDIT | REPLY |   

千菊丸  

王子からカストラートへ

亡国の王子からカストラートへの転身・・アナスタシオことミケーレの新しい人生は始まったばかりです。
これから彼の半生はどう展開してゆくのでしょうか、気になります。

2011/03/25 (Fri) 22:06 | EDIT | REPLY |   

けいったん  

NoTitle

王子アナスタシオとして 囚われの金糸雀として そして カストラートのミケーレとして...

三度の人生を 歩むしかなかった彼に いつか 本当の幸せが来る事を 願わずにはいられない。
ビェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!...byebye☆

2011/03/25 (Fri) 21:52 | REPLY |   

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