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金銀童話・王の金糸雀(かなりあ) 10 

バロックオペラなどに多く見られる女性役、天使役、少年役は、過去にはすべてカストラートと呼ばれる男性の去勢歌手が歌っている。
絶大な人気と、超絶技法で、当時教皇さえ動かすほどの、人気を集めたカストラートになるしかなかった王子と、敵国の王の物語。
歴史の仇花として大輪の華を咲かせた、カストラートの名を継ぐ者は、今や人道的な見地からもこの地上に存在しない。



緑の森のお后さまは、この日から湖の城の国に関わったすべての人間を許さなかった。
彼女を愛する王さまも、共に闇の王と呼ばれる恐怖の支配者になる道を選んだ。

彼の軍隊の通った後は、常に全て奪いつくされ炎に包まれた。
小さな村にも殺戮の軍隊が侵攻し、相手国の道の両側には、高く串刺しにされた敵兵の遺体が並んだのだ。
湖の国から来たというだけで、商人は全ての持ち物を略奪され、妻子は、遠い東の国の人買いに奴隷として売られた。

そんな仕打ちに緑の森の美しいお城には、魔王と魔女がすみ、人を喰らって生きているという噂が広がるのに、大した時間はかからなかった。
高い塔の上に、お后さまは住まいを移し、ひたと目を据えて、毎日死体の数を数え、憎い湖の国を眺めていた。
優れた統治によって、産業は栄え、豊かだった領民も、串刺しにされた隣国の兵士の側を通って、市場や教会に通うのは気が進まない。
やがて、神の教えにも背き、毎日のお祈りも止めることにした。
王さまは、お后さまの気が済むまで虐殺の進軍を、止めようとはなさらなかった。

お后さまが、どれほど弟殿下を愛していたか、国中の誰もが知っていたが、少しずつ不満の種が育とうとしていた。
兵士は長く兵役に借り出されたまま、疲弊しきっていた。
無事を祈りながら待っている妻子も、心配でたまらずふと不平をこぼしてしまう。
このままでは勇猛果敢な、緑の森の鉄の軍隊もいつしか倒れてしまうだろう。
太陽に愛された緑の森は暗雲が立ち込めたように、黒い死の森となり、鬱々と淀んだ重い空気が国中を覆っている。

そして・・・今。

行方の知れなくなった金糸雀は、天使になる審問を受けるため、教皇庁の中にある枢機卿の一室に囚われていた。
それは王の忠実な司令官の、些細な気まぐれだったかもしれない。
今や連戦に疲労困憊した、王さまの側に居る忠実な司令官も、世間には公開していなかったが、母親が王族ではない先王の庶子だった。
この王位継承権を持たない王さまの腹違いの兄は、常に傍らにあって、誰よりも深く王さまを理解していた。

気の置けない兄と共に過ごす時間は、王さまにはそこが戦場でも、心安らかな一時だったのだ。
生まれたときから影のように、常に傍らにいる忠実な司令官には、王さまの本心が手に取るように分かるのだった。
法律にのっとれば、湖の城から連れ帰ってきた捕虜の「金糸雀」は、処刑されて当然だった。
王族の、しかもお后さまの弟殿下に、だまし討ちのようなことをした卑劣な敵の息子を許すことは出来ないと誰もが思うだろう。
しかし、王様の心の内の深い苦悩と溜め息を、忠実な司令官は感じることができた。
手を下す立場にあり、王妃の事を思えば、決して許してはならないと、処刑を裁断しながら愛おしく思う心を知っていた。

司令官は独断で行動を起こした。
信頼できる数名の配下を使い、湖の国の第一王子、アナスタシオは速やかに処刑されたという噂を流した。
誰にも秘密で、閉じ込められた茨姫を略奪するように金糸雀を連れ去った忠実な司令官は、夜通し馬を駈り教皇に密かに面会を願い出た。

王さまの忠実な司令官は、聖歌隊の中に隠されていた王子を、教会で見つけた時のように、同じく少年達の中に隠そうとしていた。
ただ今度は、王位を継ぐものを隠ぺいするのではなく「天使になるもの」として。
間違っても子をなし、子孫が生きていて王位継承につながるような憂いは、絶たねばならない。
後に森の国の禍となる芽は、残してはならなかった。

当時、神聖なカストラートになるには、ふたつの方法が有った。
一つは自らカストラートになりたいと、強固な意思を聖職者に示すこと。
もう1つは、不幸な事故によって、もしくは病気によって生殖に関わる一部位を失い、天啓を受けて「天使」になるしかないのだと証明する方法だった。

仮面をつけて素顔を隠した聖職者が、厳かな声で問いかけました。

「身内の誰かが、おまえをカストラートにしようとしたのではないのか?」
「そう。例えば、金に困った父親が君に、そうしろと言ったのではないか?」

当時、カストラートは貧困に喘ぐ家庭の、お金を得る一つの口減らし方法でもあった。
そこにいる少年は、不自然に短く刈り込まれた銀色の髪を持っている。

「どうなんだね?ミケーレ。」

聖職者は返事を待った。
忠実な司令官のいうとおり、「ミケーレ」と言う偽名を名乗ったアナスタシオ王子は、やがて伏せた目を上げた。
ほんの一瞥しただけでも、ミケーレが良家の生まれだということは、誰にも理解できた。
年齢の割りに大人びた憂いと物腰が、卵白で天井に継ぎとめられた天使達のフレスコの絵よりもはるかに、真実の天使のようだと聖職者は思い眺めた。
優雅な立ち居振る舞い、一目で愛さずにはいられない天性の見た目の愛らしさ。
試験で聞いた才能溢れる澄み切ったボーイ・ソプラノは、同席した音楽院の教師が後に取り合うほど秀逸な完成されたものだった。
今すぐにエウリディケの役を与えて舞台に上げても、彼が十分に役をこなすだろうことは、連れて来た忠実な司令官にもよく分かっていた。
何しろ、緑の森の城でたった一度聞いただけの歌を、見事に歌いきったのだから・・・

「ミケーレ」は、ゆっくりと口を開きました。

「もし・・・父が、わたくしをカストラートにしたいと言ったなら、わたくしは喜んでその望みに従ったでしょう。」
「でも、父は・・・金貨を得るより、わたくしが生きながらに地獄の業火で焼かれることを望みました。」
「わたくしは、父親からは愛されていません・・・」

では、君は父を見返すために、手術を受けるつもりなのかと、直も聖職者が問うた。
視線を忠実な司令官に真っ直ぐに向けて、少年が答える。

「わたくしは、父のせいで故郷も家族も・・・。新しく父とも母とも思えた優しい人たちも・・・すべてを失いました。」
「いいえ、違います。失ったのは・・・逃げたのは自分からです・・・今のわたくしは・・・自分の身を、誰に捧げればいいのか分かりません・・・。」

声が震えて、自ら手術をするとは言えなかった。

「では、その身は音楽と主に捧げればいい。」
「ミケーレ。その美声は天から選ばれた才能だと、わたくしたちは思う。」

枢機卿の言葉に、間仕切りの裏で、数人が頷きました。

「天使となって、神のために歌を歌うかね、ミケーレ?」
「全ては、神の御心のままに。」

ついに、ミケーレは小さく「はい・・・」と答えました。
そしてミケーレは、年齢を問われるままに、12歳になりましたと、聖職者に告げた。
喜色を浮かべて、時期は早ければ早い方が良い、早いものは7歳で行うのだから、と聖職者はすぐに、医者を呼ぶ手配をしようとした。

「いいえ。わたくしの手術は、この方がしてくださいます。」

天使の領域に佇む少年が、申し出に驚く忠実な司令官の無骨な手を取ると、ひざまずいた。

「わたくしの不浄の血を、お后さまの弟君に捧げます。」
「差し上げるものは、それしか持ちません。」

ミケーレは定めにより、天使となると宣誓した。
傷口が化膿して、運が悪ければ死に至ることもある手術でしたが、それ自体は、至極簡単で単純なものだった。
戦場で修羅場をくぐってきた王さまの忠実な司令官には、野営で肉を捌くよりもはるかに容易い作業だ。
でも、何も分からないミケーレは、肉を断つ不安に青ざめて今にも卒倒しそうだった。

ミケーレが天使になることは、天使の審問の前に王様の忠実な司令官と教皇庁の間で、密かに決められていた。
緞帳の向こうには手術室が有り、温い(ぬるい)牛乳が浴槽に浅く入れられて、手際よく準備されていたのだ。

「・・・そなたが望むなら、わが手を貸してやろう。」

求めに応じて忠実な司令官は、ミケーレを軽々と抱き上げた。

「少しは、痛みを感じなくなる。飲むといい。」

口許に突きつけられた杯の液体を、一気に飲み干しました。
それは痛み止めの阿片で、強い酒に溶かしたものを飲まされると、頭の芯がぼうっとして視界が霞んでくる。
抗って余計な傷を作らぬよう忠実な司令官は、衣服を取り去ったミケーレを身動きできないように慣れた手つきで手術台に縛めて行く。

手際の良い作業は、何度も赴いた戦場で身についたものだった。




明日で第一部が終わります。(`・ω・´)
字数も多く、ずいぶんお話が広がっています。
自己満足な物語に、お付き合いいただきありがとうございます。
どこがBLやねん~になっていますが、第二部には多少色っぽいお話も…なかったらどうしよう。
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。テーマ、BL長編小説なのに~。

息抜きに童話を書いてありますので明後日から前後編でアップするつもりです。
お読みいただけたら嬉しいです。


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2 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

お勧めした天使の歌声をお聞きになってくださったんですね。
リベラのアベマリアなど聞いていると、もう誰かに謝りたくなってしまいます。
心の中の不浄な部分が透明になってゆく気がします。(°∇°;) ←…と言い切るには、ちょっと無理~

いつもお読みいただきありがとうございます。
書いていても時々、可哀想になってきます。
BGMにかけていただくと、より切なくなります。
(*⌒▽⌒*)♪音楽頼み~

こんな目に遭うのはきっと、あんぽんたん父王のせいです。(`・ω・´)
此花のせいじゃないですっ!:■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ←代わりに、殴っておきました。

セクスィ増量できるように、頑張りたいと思います。
でも、テクがないからできるだけがんばるので萠えなかったら、ごめんね。(´;ω;`)

コメントありがとうございました。嬉しかったです。(*⌒▽⌒*)♪
ちょっと痛い場面が続きます。
今夜の分は、読まなくても話は通じると思いますので、ダメだったらスルーしてね。

此花、いじめっこじゃないも~ん・・・
たぶん~

2011/03/25 (Fri) 17:18 | REPLY |   

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2011/03/25 (Fri) 15:31 | REPLY |   

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