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金銀童話・王の金糸雀(かなりあ) 2 

バロックオペラなどに多く見られる女性役、天使役、少年役は、過去にはすべてカストラートと呼ばれる男性の去勢歌手が歌っている。
絶大な人気と、超絶技法で、当時教皇さえ動かすほどの、人気を集めたカストラートになるしかなかった王子と、敵国の王の物語。
歴史の仇花として大輪の華を咲かせた、カストラートの名を継ぐ者は、今や人道的な見地からもこの地上に存在しない。




昔。

16世紀~17世紀頃の話。

味方からは一騎当千、敵からは「闇の王」と二つ名で呼ばれる、勇猛果敢な王様がいた。
彼の軍隊の通った後は、全て奪いつくされ炎に包まれると、敵国の者達は扉の内で噂をし恐怖した。
銀色の甲冑を付けた馬上の王は、大層勇ましく夜の帳のように素早く馬を駆り、地上を走れば、誰も逆らうものなどない力強い猛々しさに溢れている。
だが甲冑を脱いで丘陵に佇む時には、夜の月の光のように全てを包み込む優しさをまとって見えた。
領民に向けるまなざしは、とても優しかった。

あるとき王は、何度も自国の領土を侵犯する隣国の王に、戦争を止めようと何度目かの密書を送った。
聡明な王さまは、これ以上、意味のない戦争で自分の国の兵士が死ぬのが、とても辛かったのだ。
それなのに、森の王の思惑をよそに、隣国の王は執拗に国境を超えて、どこまでも国土を広げようとしている。

王さまは若くして王位を継承したので、周囲からは足元の固まらない今、滅ぼすには今が好機と領土を狙われ続けている。
森の国の周囲は敵だらけだった。

王様は、妻となった先代の王の娘である王妃が、継承した小さな国を守るため、仕方なく休む暇もなく、兵を率いて一生懸命闘った。
故国の民のために、勝ち続けることが自国の平和を守ることに他ならない。

民のため、王は自ら剣と家紋の獅子の付いた盾を持って、軍隊の先頭に立ち勇ましく闘ったのだ。
戦いは、数ヶ月にもおよび王の軍隊はやっと勝利を得た。

そして、遠征先の帰り道、王は小さな古びた教会の前で足を止めた。

流れてくる少年達の聖歌隊の美しい歌声に惹かれた王は、ひらりと馬から降り立つと重い扉を開く。
ギィ・・・と、軋む物音に驚いた可愛らしい聖歌隊の少年達は、紅いマントに十字架の刺繍をしたお揃いの姿で、主に祈りを捧げていた。
戦争に疲れた若い王は、まるで引き寄せられるように少年たちに近づくと思わず声をかけた。

「何という、澄み切った声だろう。」
「天上の天使の歌声をもし聞くことが出来たなら、きっとこれと同じものだろう。」
「そう、思わないか?」

王は、傍に控える忠実な司令官に、ため息交じりにそう告げた。
戦で疲れた王様の心に美しい歌声は深く染みとおって、気が付けば王の荒れた頬が涙で濡れている。
獅子のような戦ぶりで勇名をはせながら、馬を降りれば音楽を愛する繊細な感受性を持っていた。
忠実な司令官は、王の涙に驚きを隠せず黙ってその場にひざまずいた。

「この国の、領主は誰だ?」

王の質問に、忠実な司令官が厳かに告げた。

「此度の戦で勝利された今、この国の領主は、あなたです。王さま。」
「この小さな教会も、聖歌隊もあなたの持ち物です。」

王はそうかと満足げに頷くと、教会の司祭様と司令官に向かって、褒美をやりたいと伝えた。
王がどれほどこの日の音楽に心を奪われたか、後に司令官はこの日の出会いのことを何度も思い出した。
疲れた王さまが「金糸雀(かなりあ)」と呼んで、心から愛した少年の事を・・・。

「これから、湖の国の城へ行く。今、歌っていたこの者達を、全員連れてくるように。」
「もう一度、心の洗われる歌が聞きたい。その後、皆に金貨をやろう。」

これが、森の王と少年の運命の出会いだった。

****************************

聖歌隊の少年達は、その言葉に驚き、ざわついていた。

彼等は皆、貧しい家の子供達ばかりで、王さまのように高貴な方にお声をかけていただいたのも、初めてだったのだ。
金貨と聞いて、感激に震えたのも無理はない。

教会に群れて押し入った軍隊が、何の狼藉も働かず、静かに祈りを捧げて旅立つと知り、司祭様も思わず王の兵士たちに神のご加護を祈らずにはいられなかった。
噂で想像していたものと、余りに緑の森の軍隊は違っていたのだ。
戦で疲れた王様は何の乱暴も働かず、ただ兵たちに束の間の休息を与えるため、教会に立ち寄っただけだった。

そして、ふと立ち寄った教会から漏れ聞こえた、聖歌隊の美しい天上の声に、思わず涙を零すほどの多感な王さまが新しい領主になったと知り、司祭様は本心から喜んだ。

でも、この時出会ってしまったばかりに、彼等は運命の糸車のいたずらに、長く翻弄されることになる。
紅いマントに十字架の刺繍をしたお揃いの少年達は、教皇様の為の聖歌隊だった。
そしてその聖歌隊の中に、今度の戦いで敗れた、気位の高い湖の王の第一王子が隠されていたのだ。

王さまは、勝者として領地を統治するために湖のある城で、敗れた国の領主と会談(戦後処理)をするつもりでここまで足を運んでいた。
王さまの忠実な司令官に、王子をかくまっていた司祭様が困ったように告げた。

「全員連れてくるようにと王さまに言われましたが、実は、この子は正式な聖歌隊の団員ではありません。どうすればいいでしょう。」
「戦争の間、教会では大切なアナスタシオ第一王子さまのお身柄を、お預かりして匿っておりました。」
「どの子だ?」

同じ衣服なので、調べようもない。

「わたくしです。」
「わたくしが、アナスタシオです。」

優雅に進み出ると、銀色の細い髪の王子様が、聖歌隊の紅い式服を取るとお辞儀をした。
赤いマントの中から現れたのは、腰の細い毛織の青い胴着を着け、膨らんだ袖に細いリボンをいくつも結んだ、なんとも優雅な王子の姿だった。

銀色の髪は肩の上で揃えられ、深い紫水晶の優しい瞳が王さまの司令官を見つめている。

「そなたの父と話をするため、私の主人、森の王は来たのだよ。」
「新しい王さまが、おまえに歌を所望されたから、わたしと一緒においで。」

銀色の王子は、もうすっかり心を決めて頷くと、忠実な司令官の前に足を進めた。


********************************

王さまと、王さまの金糸雀と呼ばれた、カストラート(男性去勢歌手)のお話が始まりました。
王子さまは、まだ子供です。
ちゃんとBLになるのか、心配です。
童話で終わったら、非難轟々です。


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4 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

このまま清らかな王子様が、王様とらぶらぶになって楽しく暮らしました。
・・・じゃ、いけないよね。(*⌒▽⌒*)♪

童話の世界って書き始めると奥が深くて楽しいです。
yさまも頑張ってR付きで書いてくださいね。

> カストラートって興味深い題材をこのちんがどう料理するのか

期待に答えられたら、うれしいです。
頑張りたいです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/03/17 (Thu) 02:04 | REPLY |   

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管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2011/03/17 (Thu) 01:55 | REPLY |   

此花咲耶  

小春さま

> 此花ちん、童話が好きな私は歓迎ですが、
> 何か???(問題は?)

(`・ω・´) 無問題だぞ、小春ちん!
実はね、あることにはあるんだけど大きくなってからなのね・・・と、ねたばれ。
>
> 綺麗な歌声に癒されたい小春でしゅ♪

では、此花が歌います。(*⌒▽⌒*)~♪

。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。あ~、お花が枯れた~~~うわ~ん・・・

コメントありがとうございました。季節がまた、冬に戻っちゃいましたね。
小春ちん、風邪ひかないでね。(*⌒▽⌒*)♪

2011/03/16 (Wed) 21:25 | REPLY |   

小春  

童話好きですが・・・

此花ちん、童話が好きな私は歓迎ですが、
何か???(問題は?)

綺麗な歌声に癒されたい小春でしゅ♪


2011/03/16 (Wed) 21:11 | EDIT | REPLY |   

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