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おとうと・6 

何とかその場を繕って、天音は重い足を二階へと引きずりあげた。
詩鶴が心配だった。
だが、内心は複雑だった。

詩鶴が弟・・・?どういうことだ。

幼い頃から慈しみ、愛情に飢えた小さな存在を自分なりに護ってきたつもりだった。
誰よりも愛おしいと思い、腕の中の詩鶴を他の誰にもやりたくはなかった。
自分の大切な掌中の詩鶴が・・・実の弟?
詩鶴が無条件に、自分を慕うのは本能が求めたただの「血」のつながりだったというのか?
それだけのことだったのか?

「どういうことだ?・・・」

幾つもの仮定が浮かび上がった。
そのどれもが不愉快で、天音はどんと力任せに壁を叩きつけた。

「くそっ!」

青白い小さな顔の詩鶴は、目元の影を深くして今は眠っていた。
目尻に流れないまま、露が宿っていた。
傷を得た身体よりも、深く心が傷付いているのだろうと思う。

今、目を開けて自分の顔を見たら詩鶴はどう思うのだろう。
叔父に突然乱暴された恐怖に、意識を手放した詩鶴を思うと掛ける言葉が見当たらなかった。

母のこれまでの詩鶴への仕打ちも、すべて納得がいくような気がした。
母にとっては、詩鶴はただの甥ではなかった。
今だに夫の胸に棲む憎い恋敵の一粒種で、しかも面差しは瓜二つだったのだ。

寝台に顔を埋めた詩鶴が、人の気配に気が付くと、薄く目を開け半身を起こした。

「・・・天音・・・お兄ちゃん・・・?」

詩鶴はなぜか、あの桜の下で天音に詩鶴を託した儚い女性と同じドレスを着てそこにいた。

「詩津・・・さん。」
「天音お兄ちゃん・・・?な・・・に?」

天音の手が伸び、そっと薄いドレスを肩から抜いた。
詩鶴の丸い肩が現れ、驚いた詩鶴は前をかき合わせた。

「お兄ちゃんじゃない。」

抑揚のない声が、発声器官を通らずに発せられた気がする。

「お兄ちゃん!天音お兄ちゃん・・・っ!」

詩鶴のたった一つの、心のよりどころがどろりと闇に呑まれようとしている。

醜い感情の渦巻く修羅道が、口をあけ天音を飲み込んだ。

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