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紅蓮の虹・78 

「・・・ゆ・・・」


視線すら定まらなかった。


既に目も、見えていないかもしれない。


ひどい怪我で失血し、もう体の自由は利かなかったし、声も出なかった。


ただ、四郎が心の中で「百合」と呼んだのは、そこにいた誰もが聞いた。


辛うじて動く、左手の指だけが百合を探していた。


「・・・パライ・・・ソで・・」


もう声も出せない唇が、そう動いた・・・


百合は血と泥がこびりついた細い指を取り、自分の胸に大切そうに抱きしめた。


「四郎さま・・・ご一緒に・・・。」


ゆるく長い髪を結んだ、着物姿の少女が重なって見えた。


四郎の閉じた両の目から、澄んだ暖かい涙が溢れ落ちる。


愛する娘は運命を受け入れ、神と共にいる・・・


自分は神に叛き、もう少しで過ちを犯すところだった・・・


黒く染まりかけた魂が、再び綺羅の白さを取り戻した。


四郎の頬は生気を取り戻し、表情は柔らかかった。


四郎は愛する人に救われ、運命を受け入れ、長い息をつくと神の元に召された・・・




四郎の姿は、やがて煙のようにベッドから消えうせた。


そして、全てが消える前、俺たちは全員幸せな幻影を見た。


百合によく似た少女と、抱かれた幼子。


そして傍らに二人を守るように立つ、白い綸子の振袖に茜色の陣羽織を着た四郎の姿があった。


それは・・・


濃い花紫の袴をはき、南蛮風の襟飾りを付けた天の四郎の美しい姿だった・・・



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