FC2ブログ

紅蓮の虹・72 

「四郎とは、誰のことだ?」


ひんやりとした抜き身の刀が、肌に当てられた。


泣き叫ぶ娘達と違い、もう、とうに決心して両手を胸の前で組み、吊るされた百合はでうすに祈りを捧げた。


四郎には、程なくして逢えるだろう。


今生で、ややの話はできずとも、四郎は許してくれるだろう。


「四郎さま・・・」


「言え!言わぬか!」


遠巻きに人々はいたが、誰も止めることはできない狂気の沙汰だった。


鞭がしなるように、白刃は肌に食い込んで血しぶきが散った。


飢えた身体に、宿した命を守ることは困難だった。


夜露が身体を冷やし、一晩で子供は土に吸い込まれていった。


鬼のような形相の代官が、わめく中、百合は血にまみれ、聖母の顔で息絶えた・・・


鉛を鋳つぶした粗末な十字架が、腕から音もなく滑り落ちた。


息絶えた娘を木から下ろすことさえ許されず、母親は木の根元で絶命した・・・


それが、コウゲイの視た顛末だった。
関連記事

0 Comments

Leave a comment