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続・はつこい 如月奏の憂鬱・9 

・・・堕ちた。

******************************

雪雲は厚く、陽を遮っていて馬車の中は薄暗かった。
マグノリアの花のように、発光する白い花明りとなって奏は赤毛の男を誘った。

「馬車の椅子は固くて・・・できれば、ここに・・・あなたのその暖かい外套を、敷いていただければ嬉しいのだけれど。」

ウイリアムと呼ばれた男は、外套を敷いた上でしどけない姿の奏と自分が、何をするか考えただけで猛々しい思いにとらわれていた。
すぐに袖を抜くと、そそくさと外套を広げ奏を見つめたまま、衣服を緩めてゆく。
赤ら顔が上気して、まるで退治されるのを待っている赤鬼のようだと奏は思った。
気ぜわしくシャツが引き出され、前立てが開けられてゆく。
これから起きる出来事を、どこか人事のように奏は想像し柔和な笑みを浮かべた。

「そんな、恐ろしい顔を向けては嫌です。ぼくは、湖沼に住むうさぎのように怖がりで・・・迷子の小鳥のように臆病なんですから。」
「大丈夫だ。優しくすると誓うから。」
「そう・・・?誓ってください、ウイリー・・・」

愛称を呼ばれて男は体中の血液が逆流するのと感じた。

「奏っ・・・!」
「あわてないで。逃げたりしませんから・・・」

さりげなく、かけられた腕を外し、体を入れ替えたのさえ気が付かず、学友は奏の魔力に下っていた。
歓喜に打ち震え、嬉々としてその優しげな小さな顔に触れようとして両手が上がったとき、隙ができたのを奏は見逃さなかった。

奏の足がしなって、男の鳩尾に膝が食い込んだ。
ぐふ・・っと、胃の内容物を床に吐き散らして、油断した男は白目を剥いた。
腹を押さえ、どっと床に倒れこむのを、奏は顔色も変えず避けた。

おそらく外で待つ人間にも、馬車が揺れたのが分かったのだろう。

「ウィリアム、どうした。手こずっているのか。」

外から見張りの声がする。

「少しばかりね。」

ハンケチを口に当て、低い声で答えた。

「まだ、終わってない。」
「早くしろ。一度やって気がすんだら、場所を変えたほうがいい。」
「さすがに、ここに借り馬車が残っているのはまずいからな。」

忌々しい会話を聞いても、奏の怜悧な横顔が歪むことはなかった。
顔色も変えず、胸の辺りに靴の踵を思い切り叩き込んだら、骨の軋む音がした。
気を失った大男が、呻きとともに口角から血の混じった白い泡を吹く。
ガタガタと馬車が揺れる。

「おい!ほどほどにしないと、華奢な小猿が壊れてしまうぞ。」
「そんなに、いいのか。」
「好きものだなぁ、ウイリアム。」

下卑た笑い声と共に、そんな声が聞こえた。

***************************

『三十六計、逃げるに如かず。』

これは颯の台詞。
上着は諦めて、そっと反対側の扉を内側から開け、奏は馬車陰に紛れ外へと逃げ出した。
外の見張りが物音に気づき、カンテラ(明かり)が向けられる。
一瞬照らされて、奏の姿が夜目に浮かんだはずだが、構っている暇はなかった。

「なっ!ウイリアム!どうしたんだ!」
「あいつを逃がしたのか?」

背後で、状況を理解できない無頼漢達がわめいていた。
不埒者が唖然としながら、仲間を介抱している間に、少しでも遠くへ逃げなければ。
付いてくる月だけを共にして、ひたすら奏は走った。
こんな風に、奏が生身で駆けたのは、生涯で初めてだったかもしれなかった。

疲労で足がもつれる経験は初めてだった。
馬車の轍(わだち)の残るぬかるんだ田舎の馬車道を、何度か足を取られて転びながら走る。
今は気を失った白雪よりも、逃げた自分の方に意識が向いているはずだと思うから、白雪のためにも捕まるわけには行かなかった。

そう思いながらもおそらく背後から追いつくはずの、馬車の気配に知らずに怯えていたのかもしれない。
落ち着いてはいたが、奏の心臓は早鐘のように打っていた。
月明かりがあるせいで、ぼんやりと辛うじて道の輪郭がわかる。

「あっ・・・!」

道端の草に足をとられて、奏はもんどりうって坂を転がり落ちた。
雪のたまった枯草の上で、足を取られ滑り落ちた。
土手の下には、小川か湿地が有ったらしい。
したたかにあちこちを打ったうえに、腰まで水に浸かって奏は立ち上がる気力を失っていた。

「あぁ・・・なんてざまだ・・・」

どこかで不自然に、子供の泣き声がする・・・
見上げた漆黒の闇に、意識が飲まれてゆく・・・
白雪は大丈夫だろうか。
何とか注意を引くことはできたけれど、馬車の中に残してきた教授の大切な本が何ともなければいいのだけれど・・・

『中々、頑張ったじゃないか、如月。』

夢うつつの中で、颯が初めて褒めてくれた。

「もう・・・疲れました・・・。」

珍しく泣き言を言う奏に向かって、颯が笑いかけてくれた気がする・・・
腕を伸ばしかけて、そこに颯がいるはずのないのに気が付く。
今日はグラスゴーに見聞に出かけているはずだった。
ふと、涙ぐみそうになった。

「・・・颯・・・」

吹き寄せた真白い雪の溜りの中に、奏のシルエットが沈んだ。

奏・マフラー1



奏・雪

*********************************
冷え切った奏と白雪は救出されるでしょうか。
雪は湿気て、深いのです。

使用いたしました写真は詩腐徒交遊記のかやさんのフリー写真です。
煌く素敵詩と写真のサイトです。創作の萌えを刺激されます。
雪の中出向いて、わざわざ写真を撮って来て下さいました。
馬車のわだちが残るほどの、雪の量です。
イメージどおりのお写真、お借りいたします。ありがとうございました。
脱げた靴で、バナーも作りました~ (〃∇〃)


(*⌒▽⌒*) ♪奏:「護身術って意外に使えるものだね、白雪。」

ヾ(。`Д´。)ノ白雪:「もう~!ぼく、いまだに冷たい雪の中に、置いてけぼり~!」

この先、たぶんちょっと意外な展開のはずです。

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関連記事

8 Comments

此花咲耶  

Rink さま

Rink さま

> どっかの国の王子と同じ名前の人をその気にさせ
> どか!っとやっちゃいましたね。
> 血反吐はいてますが・・・ろっ骨やったの?

気位の高い設定なので、がっつり乱暴です。
したたかにすけど、キスしてしまった自分が許せないんです、きっと。

> そして、かやちんの雪写真!話にマッチしてますね~

そうなんです~!(〃∇〃) こういう写真があったらいいなとお話ししたら、気にかけてくださいました。
ちょうど折りよく、大雪が降って撮って来て下さいました。
しかも・・・この靴、新品~(´;ω;`)・・・かやちん、太っ腹すぎです~

> そして、次の話がもう?
> 時代物?

かやさまの他の写真に、お城や石段、惹かれるものがたくさんありました。
桜の花と一緒に時代物好きなのでうずうず・・・しています。
でも、まだ書きたい話がいっぱいあるので、もう少し向こうになりそうです。
もう少し、打つのが早くなればいいのですけれど・・・・

> 続きを楽しみに待ってます!

鈴音た~ん・・・(´;ω;`)
早く幸せにしてあげたいような、そのまま薄絹かぶって泣いてて欲しいような・・・いけない気持ち。
コメントありがとうございました。うれしかったです!

2011/01/21 (Fri) 09:50 | REPLY |   

Rink  

護身術で助かった

どっかの国の王子と同じ名前の人をその気にさせ
どか!っとやっちゃいましたね。
血反吐はいてますが・・・ろっ骨やったの?
そして、かやちんの雪写真!話にマッチしてますね~
そして、次の話がもう?
時代物?
続きを楽しみに待ってます!

2011/01/21 (Fri) 04:07 | REPLY |   

此花咲耶  

かやさま

かやさま

> あああ、奏ちゃんが川へ!?
> そんな、そんなつもりで川を撮ってたワケではなかったのにー!どこからともなく、「川の写真も撮らなくちゃ・・・」と囁き声が。アレは此花さまだったのでしょうか!?

かや様のところで、あの写真を見つけた時の此花の舞い上がりっぷりをお見せしたいくらいです。
表現の中に、湖沼だの浅い川だのありましたけど、この一枚の写真で状況が飲み込めてしまいます。
すっごく嬉しいです。ご無理を聞いてくださって本当にありがとうございました。
靴も黒なのが、もうきゃああ~・・・でした。(・∀・)人(・∀・)やった~!

> BLのためなら魔法も覚える此花さま、恐るべし!
> 意外な展開気になります!
>
ちちんぷいぷい・・・です。!(`・ω・´)

> 此花さま~この度はご利用ありがとうございました!
> 毎度~♪

おおっ!、かやちんが、商売人になってます~(*⌒∇⌒*)♪

> 追記の編集とお知らせ記事をUPさせて頂きましたので、よろしく御願い致しますm(_ _)m
> 此花さまのお話は、私の活力となっておりますよ(≧∇≦)
> お城へ行く言い訳もまたひとつ、頂きましたし~。

やった~~!此花の好きな時代物来た~!
かや様の写真や詩は、時々胸の内にすとんと落ちてきて「これだ~!」と感動します。
写真に合わせて、場面を増やしたり削ったり(写真が語ってくれますから)、写真に合わせて作品を書いていると思ってくださった方がいたということは、きっと作品の中に自然に場面として溶け込んでいるんですね、きっと。

> 何でもBLにこじつける私・・・。

わくわくする、此花・・・(ΦωΦ)

コメントありがとうございました。うれしかったです!(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/20 (Thu) 10:40 | REPLY |   

かや  

キャー!奏ちゃーん!

あああ、奏ちゃんが川へ!?
そんな、そんなつもりで川を撮ってたワケではなかったのにー!どこからともなく、「川の写真も撮らなくちゃ・・・」と囁き声が。アレは此花さまだったのでしょうか!?
BLのためなら魔法も覚える此花さま、恐るべし!
意外な展開気になります!

此花さま~この度はご利用ありがとうございました!
毎度~♪
追記の編集とお知らせ記事をUPさせて頂きましたので、よろしく御願い致しますm(_ _)m
此花さまのお話は、私の活力となっておりますよ(≧∇≦)
お城へ行く言い訳もまたひとつ、頂きましたし~。
何でもBLにこじつける私・・・。

2011/01/20 (Thu) 10:26 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

サフランさま

サフランさま

> このほど婚約した王子と同じ名前なのね、赤毛君(笑)。
> 素敵な写真ですよね~、いつも!

当時の日本でしたら、おそらく此花は不敬罪で首が飛んでいることでしょう・・・(´・ω・`)
>
> 雪の中でぶっ倒れている奏と白雪。凍死する前に、誰かが助けに来るのかしら?ワクワク~。
>
一番助けに来てほしい人が、来るはずです。でも、甘い雰囲気にはならないので奏がかわいそうです。
(ノд-。)←自分で書いといて・・・

> 横浜に行ったので、愚息は横浜はそんなに詳しい訳じゃないけど案内させて、港の見える丘から夜景を堪能しました♪
> 余り寒くなかったので、勿論カップルがいましたね(笑)。犬を散歩している人が多かったですよ。
若い燕を連れたマダムに見えたかしらね(笑)。
>
素敵ですね~、琥珀の君のエスコート・・・(〃▽〃)
お会いしたことないですけど、妄想力はありますからっ!

> それにしても、愚息は誰と一緒に来た事があるんでしょうね?想像以上のデートスポット!彼は西洋館などの古い建築物が大好きなので、嬉々として見学していたんでしょうねぇ。
> > 来た時は夕方だったので、近くのお嬢様学校の生徒さんやインターナショナル スクールの生徒さん達が下校されてました~。可愛い綺麗なお子さんばかりでした。
> ウチの娘も長い塾通いを経て、遂に第一志望の女子中学校に合格しました~!
> 腹黒息子の正月の帰省が長引いたの塾の長時間授から帰宅後、更に指導していた為です~。物凄いスパルタ鬼軍曹でしたよ(笑)。親以上の必死さ。

>おお~、合格おめでとうございます。
そういえば、世間はそんな季節なんですね。愛のある、スパルタ素敵ですね。(*⌒∇⌒*)♪

> 今は大学教員の例の先輩が、前に家に来たものの家にあがれなかったので、後日、自分の身上書を書いて夫に送り付けた事がありましたが(驚)、その時に、妹を見てみたいと言われてたんだって!?
> そのせいなのか、妹を勉強が出来てピアノも弾けるお嬢様にする執念、親以上です~(笑)。

先が楽しみなお子様たちです。
お嬢様にも、これから薔薇色の日々ですね。
コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/20 (Thu) 09:48 | REPLY |   

サフラン  

王子と同じ名前

このほど婚約した王子と同じ名前なのね、赤毛君(笑)。

素敵な写真ですよね~、いつも!

雪の中でぶっ倒れている奏と白雪。凍死する前に、誰かが助けに来るのかしら?ワクワク~。

横浜に行ったので、愚息は横浜はそんなに詳しい訳じゃないけど案内させて、港の見える丘から夜景を堪能しました♪
余り寒くなかったので、勿論カップルがいましたね(笑)。犬を散歩している人が多かったですよ。

若い燕を連れたマダムに見えたかしらね(笑)。

それにしても、愚息は誰と一緒に来た事があるんでしょうね?想像以上のデートスポット!彼は西洋館などの古い建築物が大好きなので、嬉々として見学していたんでしょうねぇ。

来た時は夕方だったので、近くのお嬢様学校の生徒さんやインターナショナル スクールの生徒さん達が下校されてました~。可愛い綺麗なお子さんばかりでした。

ウチの娘も長い塾通いを経て、遂に第一志望の女子中学校に合格しました~!
腹黒息子の正月の帰省が長引いたの塾の長時間授から帰宅後、更に指導していた為です~。物凄いスパルタ鬼軍曹でしたよ(笑)。親以上の必死さ。

今は大学教員の例の先輩が、前に家に来たものの家にあがれなかったので、後日、自分の身上書を書いて夫に送り付けた事がありましたが(驚)、その時に、妹を見てみたいと言われてたんだって!?
そのせいなのか、妹を勉強が出来てピアノも弾けるお嬢様にする執念、親以上です~(笑)。

2011/01/20 (Thu) 07:27 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

びびさま

びびさま

> 一回送信したら、エラーが出て戻ったらコメントが全部消えてた!ショック!
> 念の為もう一度コメントしますが、淫魔ならぬ睡魔に襲われ中につき(此花様コメより借用)、飾り無しです。
>
此花も、ショックです~。。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。
それなのに、もう一度書いてくださったのですね。うれしいですっ!

> 前半の、赤毛大男を籠絡するところの奏の「~うさぎのように~、~の小鳥のように~。」「~.ウィリー…。」
> のセリフ、赤毛大男だけでなく私もズキュンッと堕とされましたよ~。
> ヅカちっくでお芝居風なセリフまわしが、時代と風景に合ってて、「かなで様素敵~!」と叫びたくなりました。
>
やった~(*⌒∇⌒*)♪びびさまが、堕ちた~~!
(〃▽〃)奏:「何度か噛みましたけど、頑張った甲斐がありました。←役者か~!

> 隙を見ての容赦の無い攻撃も、冷酷さと同時に反撃されたら敵わないという怖れや、常に周りから邪な目を向けられる事への憤りや歯痒さを感じて凄く切なくなりました。
>
わわ~・・・(´・ω・`)深くお読みいただき、ありがとうございます。
作者の拙い分、読み手さまが達者なので、ずいぶん救われています。
びびちんっ!(*⌒3⌒*)♪好き~!うちゅ~~~っ!

> 前半が強く激しかった分余計に、後半必死になって逃げる姿と、颯を思い涙ぐむところなんか、切なさ特盛級でした。
>
わ~ん、なんてうれしい言葉でしょう。此花こそ涙ぐみます。

> 颯~、なんで結婚しちゃったのよ~⁇
> 私、このセリフ何回も言ってる気がする…。

「颯~、なんで結婚しちゃったのよ~⁇」(ノд-。)きっと、まだ何度かおっしゃる場面があると思います。
奏、ごめんよ~。

> 次回は意外な展開?楽しみです~。

はい。(*⌒∇⌒*)♪読み手さまの予想を外したいです。がんばります!

コメントありがとうございました!励みになります♪

2011/01/20 (Thu) 01:28 | REPLY |   

びび  

奏~、がんばったね(/ _ ; )

一回送信したら、エラーが出て戻ったらコメントが全部消えてた!ショック!
念の為もう一度コメントしますが、淫魔ならぬ睡魔に襲われ中につき(此花様コメより借用)、飾り無しです。

前半の、赤毛大男を籠絡するところの奏の「~うさぎのように~、~の小鳥のように~。」「~.ウィリー…。」
のセリフ、赤毛大男だけでなく私もズキュンッと堕とされましたよ~。
ヅカちっくでお芝居風なセリフまわしが、時代と風景に合ってて、「かなで様素敵~!」と叫びたくなりました。

隙を見ての容赦の無い攻撃も、冷酷さと同時に反撃されたら敵わないという怖れや、常に周りから邪な目を向けられる事への憤りや歯痒さを感じて凄く切なくなりました。

前半が強く激しかった分余計に、後半必死になって逃げる姿と、颯を思い涙ぐむところなんか、切なさ特盛級でした。

颯~、なんで結婚しちゃったのよ~⁇
私、このセリフ何回も言ってる気がする…。

次回は意外な展開?楽しみです~。

2011/01/20 (Thu) 00:37 | EDIT | REPLY |   

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