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紅蓮の虹・70 

天幕の中、四郎は小さな男の子と対面していた。


頬に煤(すす)がついて、なんだか前よりやつれて見える。


身を隠していた四郎の身内が捕まったと人々は、遠巻きに噂をしていた。


どうやら小平という名のその子は、幕府軍の使者としてきたらしかった。


たずねて来た甥に、乏しい食料の中から砂糖や菓子を与え、文を手渡した四郎の顔に、色はなかった。


四郎を慕う人々の命は、今や風前の灯となっていた。


数々の条件を飲んでも、敵の総大将の身内ともなれば、助かる保障など露ほどもなかった。


籠城している者の全てが、四郎に注目している。


どんな揺さぶりにも、屈することは許されなかった。


多くの民と決起した今、四郎は身内との再会はパライソでと決めていた。


デウスに仕えることが、生きる喜び・・・四郎はそう語ってきた。


母や姉達が、何をいってきても崩れるわけにはいかない。


「四郎さま。これを・・・」


素早く襟を解いて、子供に付き添ってきた女が小さな書付を渡した。


読んだ四郎の体が、ぐらりと傾いた。


四郎がふと視線を泳がせて、コウゲイを探した・・・ような気がした。


四郎はゆっくりと首から十字架を外すと、その女の首にかけてやり


「おまえはパライソへ、おゆき・・・」


とつぶやいた。


そして・・・


一人になった四郎の蒼白の顔に、憤怒の表情が浮かぶ。


・・・コウゲイが駆け寄った。


「四郎っ!四郎っ!何があった?」


・・・清らかで無垢な四郎の表情が、一変した・・・



そこには

「百合さま 腹のややともども 逆さ吊るし無残」

と、書いてあった。




コウゲイは、紙に触れ・・・



目を疑う状況を視た・・・



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