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続・はつこい 如月奏の憂鬱・5 

正当な英語しか理解できない留学生の周囲で、おおっぴらに飛び交う隠語は下劣な計画となり、奏に迫る危険を告げていた。

*************************

そんなこととも知らず、奏は今、構内にある経済学の教授の部屋を訪問していた。

噂では時々聞いたことのある、東棟の「ラプンツェル」とあだ名される学生の中でおそらくいちばん有名な美青年と奏を並べ、気難しやの教授は頬を緩ませ、機嫌が良さそうだった。

奏とともに部屋に招かれたもう一人の学生の名は、ヨシュアという。
貴族に匹敵する、裕福な地方領主の息子だということだった。
癖なのだろうか、蜂蜜色の細い金の髪の一房を摘み上げ、優雅な仕草で指先にくるくると巻きつけていた。
思わず見とれた奏に向けて、ティーカップを取り上げ微笑みを向けた。

「何故、君は他国ではなく、大英帝国を留学先に選んだの?」
「ここに来た理由ですか?」

彼らには、どの国も西欧諸国はほとんど変わりはないと思っているらしかったが、奏はそこできちんと理由を述べた。
驚くほど悪びれず、まっすぐに向けられた奏の視線を受け止めた金色の髪の美しい青年は、留学生の多くが向けられて不快になる侮蔑のまなざしを持たなかった。
清らかな天使の瞳は、高貴なアイスブルーだった。

「英国東洋銀行(オリエンタル・バンク)の対日政策がわが国の近代化を手助けしてくれました。」
「政府の進めた新貨幣制度を作るのにも、初期において英吉利公使パークス氏の口添えがあったと聞いております。」

「すごいね。君達、留学生の肩には、ずいぶん大きなものが乗っているようだ。」

奏は、小さな国の旺盛な知識欲などの話をした。
学生たちが、どれだけの難関を潜り抜けて留学生となったか、どれだけの期待を背負ってこの地に降り立ったか。

さすがに、国に帰れば、如月財閥の筆頭であるなどとは言わなかったが、それでも一見10代にしか見えない奏の話に大いに興味を持ったようだ。
意外なことに奏が連れてきた小姓の白雪の話をすると、青年は頬を染めて嬉しげになり、領地の屋敷で待つ執事の話をした。
奏にだけ聞こえる小さな声で、青年は実はね・・・と、耳打ちした。

「アダムは、僕の大切な人なんだ。」

艶のあるさくらんぼのような唇を持つ美しい青年と、経済学の教授と三人で、奏は久しぶりに穏やかな午餐を楽しんだ。

「奏。今日は、有意義な時間をありがとう。」
「こちらこそ。お会いできて光栄でした。」
「また、いつか。」

自然保護のボランティア活動をしているという青年は、やがて自ら握手を求め退出した。
驚くほどしなやかな細い指は、躊躇せずに東洋の留学生と握手を交わした。

「驚きました。まるで希臘(ギリシア)の彫像のように、美しい方ですね、教授。」
「わたしには、神の作った東西の完璧な美がそろったような気がしたよ。まさしく眼福と言えるだろうね。」

「富裕層の方々には、渡英して以来親切にされたことがなかったのですが、あの方はどうやら日本人への偏見はお持ちではないようです。」
「正直言って、そういうところが気に入ってるんだ。彼と話をすると深い森で、深呼吸している時のような清々しい気持ちになるね。」
「ああ、確かにそう思います。僕も、久しぶりに楽しい時間を過ごせました。」

話をするうち、東洋の小さな島国からやって来た一人の留学生が、国家そのものを意識した意見を持っていることに、経済学を教える教授は興味を持った。
教授の目には、まだ10代になったばかりにしか見えないあどけなさの残る美青年が、誰よりも英国に心酔して見え、どうやら手助けしてやりたくなったらしい。

優れた文化、技術、制度を懸命に吸収しようと、僅かな睡眠時間でノートを取る真摯な瞳は、頑固といわれる教授の心を解いたようだ。
必要なら難しい専門用語を、噛み砕くように説明してやろうと提案され、奏は素直に喜んだ。
辞書を片手に一晩費やして、ほんの少しの仮眠で再び授業に出る生活がこれ以上続くのは、さすがにきつかったのだ。

「ありがとうございます。教授の貴重なお時間を取らせて申し訳ないですが、正直にうれしいです。」

当初の予定通り、国営銀行は既に日本に設立されていた。
だが、集めた資金を元に経営を軌道に乗せるための問題は山積みで、日本ではわからないことは多く、設立者の苦悩は深かった。
新しい制度についてのありったけの知識を、手探りで自分なりに吸収し、わかりやすくまとめて国許に送らなければならない。
それは官費留学生にして実業家の、如月奏の使命でもあった。

「鉄道を国家事業と出来たのも、貴国に国債発行をご協力いただいたからだと聞いております。私は今、国内の鉄道建設事業に関わっておりますから、様々な事柄を英国で学べて本当にうれしいのです。」

奏の言う鉄道建設事業というのは、明治政府が初めて引いた陸蒸気の話だった。
確かに鉄道という大いなる国家事業を、開国して間もない小さな島国一国がやり遂げるとは、どこの国も思っていなかっただろう。
他の国は、金を出す代わりに輸送収益の大方と、経営権を求めてきた。
日本国中、後に網羅と引かれる鉄道が、英吉利の後押しなくしてここまで成功したとはいえなかっただろう。

まるで教授が関わったかのように、英国への感謝の意を述べる見目の良い日本人に、教授は機嫌を良くし、数少ない生徒にしか許可を与えない自宅への訪問さえも許した。

「ありがとうございます。では、週末にお伺いいたします。」

奏は、小さく首を傾けて教授が自ら手を差し出すのを待った。
目下のものから、手を差し出すなどいくら浮かれていても決してしてはならない。
その姿すら、好ましく映ったようだ。

「実はね、君のことは、とうに妻は知っているよ。「留学生の華」と呼ばれている君が来ると、おそらく妻とご友人が喜ぶだろう。」

「留学生の華」・・・いつ、そんな名前で呼ばれるようになったんだ・・・と、思いながらも魅了する笑顔を向けた。

「わたしも教授の奥様にお会いできるのを、楽しみにしております。どうぞ、奥様とご友人にも、よろしくお伝え下さい。」

握手は好きではなかったが、抱擁よりはましだった。

「教授の奥方でしたら、さぞかし教養のある方でしょうね。」

奏は、流暢な英語で告げ、教授の部屋を後にした。
おそらく、欲しかった資本主義の本が手に入るだろう。
系統付けた手引書のようなものが手に入ったほうが、正直、制度などはわかりやすい。
笑顔を張り付かせたまま、土産に何を持っていけば良いかと考え始めた。

「白雪。週末は、教授の家に訪問することになった。手土産は婦人に、扇子をお持ちしたので良いかな。」
「奏さま。颯様と、グラスゴーに行く約束はどうなさいます?」

大英帝国の発展を支えた、スコットランド、グラスゴー「機械の都」へ週末に行ってみないかと、颯に誘われていた。

「行きたいけど、無理だなぁ・・・。留守を預かる白菊が、英国流の資本主義についてまとめたものを、早く送って来いと電報で言って来ただろう?」
「ええ。もう矢のような催促です。」
「う~ん・・・今回は、残念だが教授のお宅への訪問を優先すると、湖上に伝えてくれないか。」
「わかりました。湖上さまにはそのように。」

実業家としての奏へ向けられた期待は相当大きなものだった。
事業への勘のようなものは、他を圧倒する早熟さを持っている。
過去の痛みは、時代が生まれ変わるために必要だったと思わせるような、不思議な運命のもとに生まれたとしか言いようがない。
すべき事をひたすら成そうとする、どこまでも一途な生き方がそこにあった。

奏の本心は、颯とともに「機械の都」グラスゴーへ行きたいと思っていると、白雪には透けて見えた。

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@アドさまのおうちの、美しいヨシュア君と、お茶会できました~(*⌒∇⌒*)♪
ご一緒で来て幸せでした。
ありがとうございます!

(〃▽〃)光栄です~!
お名前だけちらりと出したら、みんな気が付いていてびっくりです。


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8 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

鍵付きコメントさま

無理なお願いをお聞きいただき、ありがとうございます。
なんて素敵~。(*⌒∇⌒*)♪

素敵写真ですっ!
もう少し先で、使わせてください。
お知らせありがとうございました。
うれしくて、どんなに世間が寒くても、気持ちはすごくあたたかいです。
(*⌒3⌒*)♪うちゅ~~~っ!(逃げてっ!)

2011/01/16 (Sun) 19:21 | REPLY |   

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2011/01/16 (Sun) 16:35 | REPLY |   

此花咲耶  

小春さま

小春さま

> それぞれ違う物語の主人公が、偶然かつ必然的に、運命の出逢いをするv-238
> ・゜゜・*:.。.d((o・c_,・o))b ィィジャン・゜゜・*:.。

同じ時代に、ご一緒にお茶ができたらどんなに素敵でしょうとコメ欄で言ってたら、おっけぇ~いただきました。美貌に関しては、十分@Aさまの文章で伝わっているので、その場の空気を楽しんでいただきたかったです。

> 此花ちんの世界が広がるね^^
>
美しい世界です。季節は冬で、これから雪が降ります。
あ、BL KANCHOROに参加すればよかったかな~(ノд-。)書くのに必死こいてて、忘れてました・・・

> 綺麗どころがどのように絡むのかお楽しみだわ!

絡みたいのですが、ヨシュアさんもお忙しい身の上なので、素敵な時間はここでお終いです。
至福の時間でした。(*⌒∇⌒*)♪
>
> 雪で石が拾えないので・・・雪球作って構えています(又かよ!)

固く、きゅ~ってしてね。

!(`・ω・´)「奏:大丈夫ですっ!自分の身は自分で守りますっ!」
|ω・`) 「白雪:・・・奏さま、無理です~~~」

コメントありがとうございました。転ばないでね。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/16 (Sun) 11:35 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

鍵付きコメントさま

留学生たちの生活なんて本を読んでいますと、国許では若様だった彼らが身分差別で苦しんだりかなり気の毒な目にあっているのも垣間見えます。
勉強もせずに、遊びほうけて結婚詐欺まがいのことをした華族もいて、それ以降はまじめでお勉強のできる人を選んで留学生にしたらしいです。
…当たり前よね~(*´・ω・)(・ω・`*)ネー

(皮肉たっぷり)←きゃあ、素敵。ロアルド・ダール…と教えていただいて、思わずわからなくて検索しました。おお…007は二度死ぬ!とっさに出てこない、さび付いた引出を持っています。(´・ω・`)

不憫な奏くんに、大切な人が現れるのか。
…困ったぞ~、この分だと番外編になだれ込むことになりそうです。だってね、この後襲われて・・・あっ。
お口にチャック~(*⌒∇⌒*)♪

コメントありがとうございました。うれしかったです~!(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/16 (Sun) 11:26 | REPLY |   

小春  

コラボレーション

それぞれ違う物語の主人公が、偶然かつ必然的に、運命の出逢いをするv-238
・゜゜・*:.。.d((o・c_,・o))b ィィジャン・゜゜・*:.。

此花ちんの世界が広がるね^^

綺麗どころがどのように絡むのかお楽しみだわ!

雪で石が拾えないので・・・雪球作って構えています(又かよ!)

2011/01/16 (Sun) 11:05 | EDIT | REPLY |   

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2011/01/16 (Sun) 10:41 | REPLY |   

此花咲耶  

びびさま

びびさま

> まさかこんなに早く、しかもこんなにたっぷりと、ヨシュア君とのお茶会が楽しめるとは思いませんでした(*^_^*)
> ニアミスどころか、しっかり友情も育めそうな良い雰囲気でしたよ!
> 教授じゃありませんが、まさに`眼福‘な光景でしょうねぇ。ウットリ♡

この場をできるなら、絵に書きたいと思いました。
筆力、および画力のないのが致命的です~。(´・ω・`)
美しいヨシュア君の姿が想像できたら、もうそれで幸せです。
同じ時代に、存在していたと思うだけで、くるくるしてしまいます。
@Aさま、ありがとうございました~~!!(*⌒∇⌒*)♪
>
> 今日は、奏が今回の英国留学で、如何にして沢山の有益な知識を吸収し、日本経済の発展に役立てたいと思っているのかが垣間見えて良かったです。奏の清廉潔白さが好感持てて、思わず「いい子、いい子」したくなっちゃいました!
>
!(`・ω・´) 「奏:日本男児ですからっ!…でも、いい子いい子・・・う、うれしいです。

> それなのに、奏をお人形さんのように軽く考えて下劣な計画が進行しているようで、心配ですぅ~!
> つい「奏!後ろっ、後ろ~!」と、ド◯フみたいに叫ぶかもしれません。
>
いっそ、上から洗面器や金たらいを落としたいくらいです。

「奏!後ろっ、後ろ~!」…言ってしまいそうです。ふきました~!(*⌒∇⌒*)♪

> あ~、頑張ってね(^_-)-☆
> 負けないでよ~!。・°°・(>_<)・°°・。

(´・ω・`) 「奏:作者があんぽんたんなのが、心配です~。」

!(`・ω・´)「白雪:奏さま、心配ですからぱんつ二枚はきましょう!」

いやいや・・・
コメントありがとうございました。うれしかったです♪

2011/01/16 (Sun) 02:28 | REPLY |   

びび  

キャァァァーー(=´∀`)人(´∀`=)

まさかこんなに早く、しかもこんなにたっぷりと、ヨシュア君とのお茶会が楽しめるとは思いませんでした(*^_^*)
ニアミスどころか、しっかり友情も育めそうな良い雰囲気でしたよ!
教授じゃありませんが、まさに`眼福‘な光景でしょうねぇ。ウットリ♡

今日は、奏が今回の英国留学で、如何にして沢山の有益な知識を吸収し、日本経済の発展に役立てたいと思っているのかが垣間見えて良かったです。奏の清廉潔白さが好感持てて、思わず「いい子、いい子」したくなっちゃいました!

それなのに、奏をお人形さんのように軽く考えて下劣な計画が進行しているようで、心配ですぅ~!
つい「奏!後ろっ、後ろ~!」と、ド◯フみたいに叫ぶかもしれません。

あ~、頑張ってね(^_-)-☆
負けないでよ~!。・°°・(>_<)・°°・。

2011/01/15 (Sat) 23:29 | EDIT | REPLY |   

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