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ずっと君を待っていた・27 

小さな鎌首を持ち上げて、ただの白い子蛇は嘆くクシナダヒメを見つめていた。
名残惜しそうにしていたが、傷だらけの子蛇はやがてちろちろと先の割れた舌で、クシナダヒメの頬に触れると石垣の隙間に消えた。
それが、今生でのやるせない最後の別れになった。

眼が溶けるほど泣き崩れたクシナダヒメは、やがて涙を拭き神々の住む高天原からの祝福を受ける。
大地を統べる女神として、クシナダヒメはこのまま泣き暮らして地上の稲穂を枯らすわけにはいかない。
そんな天地の理を受け入れ、神々の裁可に従って、クシナダヒメはスサノオの妻となる道を選んだのだった。

だがその胸には、最後に息絶える寸前のオロチが気力を振り絞り、辛うじてつないだ絆の鏡がある。
鏡の中に二人で過ごした時間を、持てる霊力で出来るだけ閉じ込めて、二人は密かに遠い未来に来世を誓った。

『今度、生まれ変わったなら、家を教え名を答えよう。』

そうして気が遠くなるほどの長い長い時間をかけて、オロチは霊力を取り戻し、クシナダヒメの転生を待ったのだ。

鏡の外の世界から来た記憶の無かったクシナダヒメは、すべてを知った。
最愛の娘をかばって倒れたオロチを思って、ほろほろとしとどに泣き濡れていた。
命がけで娘を守った、大蛇の愛に心を打たれていた。

どうやって鏡のこちらに帰ってきたのか、分からなかった。
いつしか、見慣れた部屋に戻ってもずっと涙が止まらなかった。
丸く身体を丸めて、ひたすらの涙が畳に吸われてゆく。
締め付けられるような、信実の恋を知ってつきんと胸が痛かった。

初めて、こんなにも深い思いがあることを知った。

「オロチ・・・ご当主さ・・・ま。」

鏡の中に閉じ込められた、オロチとクシナダヒメの誓いは永遠だった。

「クシナダ・・・大事ないか・・・」

そこに居るのは、ご当主の海槌緋色なのか、それともオロチなのか、その姿は鏡の中のオロチに似ていた。

「・・・ぅっうわあぁあんっ・・・」

側に来た海鎚緋色、転生したオロチに縋って、ぼくは初めて人前で声を上げて泣いた。
ご当主は相当、困惑したのだろうとおもう。

傍によるな~と青い顔で泣き喚いていたぼくが、今や取りすがってわんわんと、小さな子供が乳房を求めるように無防備に泣いていたのだから。

オロチ・・・ご当主は懐の中にいるぼくに手を回すて、おずおずと・・・やがてきゅと力を込めた。

「クシナダ・・・そなたが泣くと我は、辛い・・・涙は、止まらぬか?」

「ふ・・・も、いいよ・・・」

しゃくりあげながら、ぼくはついに運命を受けとめた。

「神楽で踊ればいいんだろ・・・?そうすれば、ご当主様の念願が叶うんだろ?」

「ぼ・・くでいいなら、オロチが大好きなクシナダヒメと代わってあげるよ・・・今までずっと、気が遠くなるほど待っていたんだろ・・・」

ご当主は、何も言わずぼくを抱きしめた腕に、なお一層の力を込めた。
人型の大蛇の虹彩がすっと細くなり、ぬめと光った気がしたが、今はそれほど怖くなかった。

オロチは転生かなって、今は「海鎚緋色」と名乗っている。

名前にある「緋」の字は、きっと川となって流れるほどの狂おしい血の色を忘れぬように入れたのだ。
まぶたの裏で、真っ赤な濁流が映像になった。


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1 Comments

小春  

ぼろぼろ小春

此花ちん、小春が泣き虫ちゃんなのはバレバレ?

ここで、ぼろぼろでございます、はい。

2011/01/27 (Thu) 13:25 | EDIT | REPLY |   

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