ずっと君を待っていた・16
御当主が部屋を出て行ったのを、しっかりと確かめて、ぼくは青ちゃんに詰め寄った。
「わけ、わかんない~っ!!!!」
「日本語が、わかんない~っ!!!!」
地団太を踏む俺を、青ちゃんは、すっかり困り果てたという態で、横を向いて小さくため息をついた。
「ごめんね、クシちゃん。」
「でも、これはうんと昔から・・・この世界が出来て間もない頃からの決め事だから、仕方のないことなんだよ。」
「魂が二つに別れてしまったから、クシちゃんには何の記憶もないんだねぇ・・・」
思いがけず、青ちゃんは手の甲でぐいと涙を拭った。
「俺が・・・元々は俺の前世のスサノオノミコトが、元凶なんだよ。」
「俺が、オロチを騙し討ちにして、クシナダヒメを奪ったことが全ての始まりだったんだ。だから・・・オロチはすごく辛くて、今も昔の記憶に捕らわれてるんだ。」
それは、青ちゃんが生まれたときから持っているという記憶の話だった。
青ちゃんは、神々の中でも荒ぶる神として、神々からも人々からも畏れられていたらしい。
「青ちゃん・・・話を聞く前に、一つだけ教えて。」
「いいよ、何?」
御当主の言った単語の意味を、聞きたかった。
「あのね・・・。口を吸うってどういう意味?」
「俺、ゆうべ食われそうになって、めっちゃ怖かった。」
「ああ、そうだったんだ・・・クシちゃん、小さくても蛇嫌いだもんねぇ。」
と、青ちゃんはぽんぽんと、いつかのように俺の頭を軽く叩いた。
そして静かな声で、青ちゃんはこともなげに、答えをくれた。
「御当主は、クシちゃんとキスしたかったって、言ったんだよ。」
「でも、クシちゃんはオロチの恋人だった昔の記憶を持ってないし、いやでも仕方ないよねぇ。」
ぼくはきっと泣きそうな顔をしていたに違いない。
・・・いっそ、食われた方が、まだマシかもしれない・・・
「だってぼく、男だよ。男同士でキスなんてして、どうするんだよ。不毛だよっ!」
「こればっかりは、仕様がないんだよ、クシちゃん。」
悲しそうに涙をためて青ちゃんは、呟いた。
「だって、うんと昔、オロチとクシナダは仲のいい恋人同士だったんだよ。」
「それこそ、人も羨むね・・・だから、嫌われ者だったスサノオは邪魔したくなっちゃったんだよ。スサノオは、家族に追放されて一人ぼっちだったから、余計に羨ましかったんだろうね。」
つきんと、その単語に胸が痛む。
「討たれたオロチは、好きな女に結婚の申し込みに来ただけだったのに、酒と毒を飲ませて、騙し討ちにしたんだ。」
ふうん・・・
「日本昔話とか古事記とかで、ヤマタノオロチの話は結構有名だよね。」
と、青ちゃんは話し始めた。
日本書紀と古事記では名前の表記が違ったりしているけど、内容は殆ど変わらないそうだ。
でもね、青ちゃんの話は俺の知っている「ヤマタノオロチ」の昔話とは、ずいぶん違っていたんだ。
たぶん、一般的な神話はこうだよね。
ぼくが知っている話は、こうだ。
神々の住む高天原(たかまがはら)を追放された、スサノオノミコトは、出雲の国、斐伊川(ひいがわ)上流にあらわれて、そこから話は始まる・・・・
いつもお読みいただきありがとうございます。
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明日も、がんばります。 此花
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「魂が二つに別れてしまったから、クシちゃんには何の記憶もないんだねぇ・・・」
思いがけず、青ちゃんは手の甲でぐいと涙を拭った。
「俺が・・・元々は俺の前世のスサノオノミコトが、元凶なんだよ。」
「俺が、オロチを騙し討ちにして、クシナダヒメを奪ったことが全ての始まりだったんだ。だから・・・オロチはすごく辛くて、今も昔の記憶に捕らわれてるんだ。」
それは、青ちゃんが生まれたときから持っているという記憶の話だった。
青ちゃんは、神々の中でも荒ぶる神として、神々からも人々からも畏れられていたらしい。
「青ちゃん・・・話を聞く前に、一つだけ教えて。」
「いいよ、何?」
御当主の言った単語の意味を、聞きたかった。
「あのね・・・。口を吸うってどういう意味?」
「俺、ゆうべ食われそうになって、めっちゃ怖かった。」
「ああ、そうだったんだ・・・クシちゃん、小さくても蛇嫌いだもんねぇ。」
と、青ちゃんはぽんぽんと、いつかのように俺の頭を軽く叩いた。
そして静かな声で、青ちゃんはこともなげに、答えをくれた。
「御当主は、クシちゃんとキスしたかったって、言ったんだよ。」
「でも、クシちゃんはオロチの恋人だった昔の記憶を持ってないし、いやでも仕方ないよねぇ。」
ぼくはきっと泣きそうな顔をしていたに違いない。
・・・いっそ、食われた方が、まだマシかもしれない・・・
「だってぼく、男だよ。男同士でキスなんてして、どうするんだよ。不毛だよっ!」
「こればっかりは、仕様がないんだよ、クシちゃん。」
悲しそうに涙をためて青ちゃんは、呟いた。
「だって、うんと昔、オロチとクシナダは仲のいい恋人同士だったんだよ。」
「それこそ、人も羨むね・・・だから、嫌われ者だったスサノオは邪魔したくなっちゃったんだよ。スサノオは、家族に追放されて一人ぼっちだったから、余計に羨ましかったんだろうね。」
つきんと、その単語に胸が痛む。
「討たれたオロチは、好きな女に結婚の申し込みに来ただけだったのに、酒と毒を飲ませて、騙し討ちにしたんだ。」
ふうん・・・
「日本昔話とか古事記とかで、ヤマタノオロチの話は結構有名だよね。」
と、青ちゃんは話し始めた。
日本書紀と古事記では名前の表記が違ったりしているけど、内容は殆ど変わらないそうだ。
でもね、青ちゃんの話は俺の知っている「ヤマタノオロチ」の昔話とは、ずいぶん違っていたんだ。
たぶん、一般的な神話はこうだよね。
ぼくが知っている話は、こうだ。
神々の住む高天原(たかまがはら)を追放された、スサノオノミコトは、出雲の国、斐伊川(ひいがわ)上流にあらわれて、そこから話は始まる・・・・
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