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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・93 

ここに来るのも、ご家族も相当な覚悟をしてきたはずだと思う。

「田舎に連れて帰って、何とか真っ当な男の格好からさせてみます。」

ユリアちゃんは、言葉の代わりに小さく頭をいやいやと振った。
ふと、ぼくは父親の陽に焼けた無骨な手が、握りしめられているのに気が付く。

「お父さんは、今、お仕事の合間に野菜や米を育てているんですよね。」

「はい。わたしは子供の頃から土いじりが好きで、今は本業の会計士の空き時間に、家庭菜園をやっております。」

「大分前ですけど、恭一郎さんは土の匂いがするお父さんの手が、すごく好きだとぼくに話してくれたことがあります。」

「ああ、こいつはそうでしたね・・・机の前に居るときは寄り付かないくせに、畑に出るといつもうれしそうに寄って来ていました。」

どんなに働き者か、口下手だけど本当はどんなに優しい人か、畑でお父さんを見ていれば分かるのと、聞かせていただいてますと告げると、少しはにかんだ笑顔を浮かべた。

一つの確信があった。

「家出する前、恭一郎さんは強度の摂食障害で、摂取と嘔吐を繰り返していたそうですね。」

「はい。何年も太ったり痩せたり、終いには自傷行為もあったりで、家族はこいつ一人に振り回されて大変でした。」

ユリアちゃんはひくっと嗚咽を漏らし、泣くのを我慢して辛そうだった。
ぼくは、お父さんを見つめた。

「ぼくは、摂食障害は甘えたい、愛されたいという家族依存の変形だと思っています。」
うなだれていた母親が、はっとつかれたように、やつれた顔を上げた。

「恭一郎さんは言えなかったんです。立派過ぎるご両親やご兄弟に甘えたい、愛されたいって。」

「普通じゃない自分にはその資格がないと、ずっと思ってきたから。」

ひくっと、ユリアちゃんがとうとうしゃくりあげたのが聞こえた。
思わず、頼りないその腕を掴んだけど、力を込めたぼくの手も震えていた。

「性別を変更するのは、正直言って身体には大変なリスクを伴います。
心も身体も傷つけて、免疫不全や臓器不全でそのまま死んでしまう可能性も有ります。
生きている限り、定期的に投与するホルモンにも副作用があります。」

「だったら、そんな大変な思いまでして、手術を受けなくても、このまま静かに生きていればいいじゃないですか。

わたし達はこの子に何も、望まないのに。」

「誰にも望まれない人生なんて・・・お父さん、それは生きているとは言いませんよ。」

「・・・・」

「子どもが生まれたとき、恭一郎さんの幸せをご両親は願ったはずです。何も望まない親なんて、世界中探したってどこにもいませんよ。」

ぼくは、懸命に言葉を探った。

「恭一郎さんが生まれたときに、幸せになってくれと望んだ湧き上がった強い気持を、今の恭一郎さんにもう一度持てませんか?」

父親の顔が歪んだ。





これも愛、あれも愛、たぶん愛、きっと愛・・・
不確かなものを求めて揺れる親子って、たぶんどこにもあるんだろうなぁ・・・そこに愛があるから、憎しみにも変わります。表裏、裏腹・・・
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