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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・86 

どんなに悲しくても、朝日は昇り日々は巡った。

ぼくはその頃から、少しずつなりたい自分を表に出すようになった。

時々ユリアちゃんの服を借りて、なりたいオンナノコの恰好もさせてもらった。
きっと不自然で、ぎこちない恰好だったと思うけれど・・・。

ユリアちゃんの砂糖菓子みたいな甘いデザインの、フリルの付いた服を着て写真を撮ってもらった。
成瀬のおじさんの持っている貸しスタジオで、おじさんの雇っている専属カメラマンがたくさんの写真を撮ってくれた。

うんと昔、そうしたように・・・

カメラと照明を前にすると、何となく記憶の中に沈んでいた「えっちのお仕事」が澱のようにふわふわと浮き上がってきた。
貧相な細い男の身体のままで、ぼくはその日恋人役で、ユリアちゃんの新しくなった部分(パーツ)にそうっと触れた。
ユリアちゃんはお金を貯めて、とうとうおっぱいを大きくしたんだ。
だから、今日はその記念の写真撮影。

「これから最低でも、百万円は貯めなきゃいけないの。がんばらなくちゃ。」

性転換手術を受けるため、お金の必要なユリアちゃんを助けて、成瀬のおじさんは販売用に、ユリアちゃんの胸からこぼれる官能的なおっぱいの写真をたくさん撮った。

「みぃ。ユリアにちゅっして。」

「そのまま、おっぱいに降りて来て。」

恋人同士の絡みが終わると、成瀬のおじさんは、今度はまるで女の子同士の絡みに見えるように写真を撮った。
ぼくは、女の子になって長いくるくるのかつらを付ける。

「こうしてみると、みぃはすごい美少年だなぁ。」

カメラのファインダー越しに、つぶやくおじさんはユリアちゃんのよき理解者だった。
洸兄ちゃんのいない日々が静かに流れて行き、ぼくはいまだに女の子になるための一歩も動けなかったけれど、ユリアちゃんの過ごす毎日は慌しかった。

「みぃちゃん。まだ少しもピル飲んでないのね?」

ふくらみの何もないぼくの胸に、ユリアちゃんの唇が掠めるように触れた。

「あ、んっ・・・」

何もないおっぱいが、いたずらされるとじんとする。

「わたしね。タイの病院、予約したのよ。」

視線をカメラに向けたまま、作り物の柔らかいおっぱいを持ち上げながら、ユリアちゃんが打ち明けた。

「いつ行くの?」

「半年後。成瀬さんが一緒に行ってくれるっていうの。言葉が分からないから、心配だったけど向こうには通訳の人もちゃんといるんだって。」

本心からおめでとうと告げたけど、ぼくの心の中には風が吹いていた。

洸兄ちゃん、ぼくはどうすればいいのか、まだわからない・・・
男の子にも女の子にもなれない、未成熟な個体のぼく。

絶え間なく流れて行く周囲を他所に、ぼくだけが浅瀬に乗り上げた小船のようにその場に留まったままだった。

日々の煩悶をよそに、それでも向えた大学入試は、何とか上手くゆきぼくは運よく医大にストレートで入学できた。

「ねぇ、もしかして、松原君?」

大学一年になって、専門書を探しに古本屋へ出かけたとき、女性の声で呼びとめられた。

「・・・?え・・・と、あ、佐伯さん・・・?」

確かエスカレーターの女子大に行ったはずだと、思い出した。

「奇遇ね。松原君も専門書探しに来たの?」

「あ、うん。ここなら揃うって先輩に教えてもらったから。」

「お医者さんになるんだ?松原君、子供の頃から頭よかったものねぇ。」

ぼくが胸に抱えた数冊から、察したらしい。

そして、これが運命の出会いになった。





懐かしい佐伯さんとの出逢いが、これからみぃくんの運命を変えてゆきます。
いつもお読みいただきありがとうございます。励みになっています。きゅんきゅん。   此花
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