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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・85 

ぼくがどんなに泣いても祈っても、洸兄ちゃんの目は固く閉じられて二度と開かなかった。

身体中、血の滲んだ包帯で覆われて、しばらくたくさんのチューブで繋がれていたけど、おじさんがもう楽にしてやってくださいと、お医者さんに頼んだ。

心臓だけは機械で動いていたけれど、脳は即死状態でドナー登録されていた洸兄ちゃんの遺体は、又誰かの役に立つ。
洸兄ちゃんは、死んでからもみんなに優しい人だった。

「きみが、みぃくん?」

「ふ・・ぇ・・?」

泣きすぎて、まともな言葉が出てこない。
優しげな細い洸兄ちゃんの先輩と名乗ったひとが側に来て、泣き濡れたぼくの肩を抱いた。
いつも洸兄ちゃんが、そうするように・・・。

「洸に、頼まれてたんだ。何かあったら、君の話を聞いてやってって。」

葬儀の日、いつもは着ない黒い学生服に袖を通して、涙で溶けそうになっていたぼくは、その人を見つめた。

「こ、洸兄ちゃんのお友達?」

「ぼくはまだ駆け出しだけど、心療内科の医者なんだ。洸がいつも、君のことばかり言ってたから会いにきたよ。」

「洸は君のことを、すごく大切に思っていたんだね。」

「ぼくも・・・。ぼくも、洸兄ちゃんが大好きだった。」

初めて会ったその人は、ぼくがそう言うとふっと笑顔を消した。

「そう、大好きだったの。」

こく・・・と頷いた。

「じゃあ・・・君は、洸の気持に気付いてた?」

気持・・・?

いつも全身でぼくに見返りのない「愛」をくれた洸兄ちゃんの気持?
ぼくのために、医者になるんだと言ってくれた洸兄ちゃんの気持・・・?

洸兄ちゃんは、いつも自分のことよりぼくを優先してくれた。

ふいに・・・

怒涛のように押し寄せた感情の波に攫われるように、ぼくは気づいた。


「あ・・・っ。」

いつも、どんなときもぼくは、洸兄ちゃんの一番だった・・・。
洸兄ちゃんの包み込むような笑顔がふいに恋しくてたまらなくなって、涙が滂沱と溢れた。

「・・・こ・・・う兄ちゃんっ・・・わあぁ~ん・・・っ・・・」

何故ぼくはいつも自分のことばかりで、周りを何も見ていなかったんだろう。
初めて会った、洸兄ちゃんの先輩の前で、ぼくは泣きじゃくった。
突然、取り返しの付かない自分の浅はかさに気付いた。
洸兄ちゃんの繰り返す優しい「やっぱり」の中に、どれだけの思いが込められていたか、ぼくは知らなかった。

いつも自分のことだけで、精一杯だった。
自分の抱えている悩みだけが、一番大変だと思い込んで他のことは何も見ないようにしていた、どこまでもわがままなぼく。
洸兄ちゃんは、あんなに優しかったのに。
しゃがみこんで嗚咽を漏らすぼくの頭に、洸兄ちゃんがそうしたように、その人もやっぱり大きな手を載せた。

「そんなに泣かないの。責めているんじゃないんだよ。」

「あいつは君のことがうんと昔から大好きで大切にしたけど、何も求めていなかっただろう?」

「・・・んっ・・・」

「洸が何も伝えないで逝ったから、代わりに伝えてやりたかっただけなんだよ。ごめんね、困らせてしまって。こんなに泣かせたら、洸に叱られそうだ。」

「ぼ・・・く、どう・・したらっ、い・・・いかな。」

涙と嗚咽で聞き取れない言葉に、洸兄ちゃんの先輩は何もしなくていいさと小さな声で答えた。

「一生けんめい生きるんだよ。何があっても、みぃはみぃだろ、って洸なら言うはずだから。」

「みぃくんが、ちゃんとみぃくんらしく生きるってのが洸の望みだろうからね。」

「ぼく・・・らしく生きる・・・」

その日、ぼくの胸に刻まれたのは、洸兄ちゃんの深い想いだった。
いなくなってやっと、ぼくの胸の深い底に届いた洸兄ちゃんの想い。








深い洸兄ちゃんの思い。
みぃくんの相談に乗るためにカフェで待ち合わせして、偶然、千尋君と出会った。
そんなエピソードが不思議と無理なく繋がっていることに驚いてしまいます。
kikyouさまの「一輪花」すごい・・・とあらためて思ってしまいます。此花のこの辺りを、先にお読み頂いたわけでもないのに一つのエピソードとして時間軸すらずれていません。
改めて感動です。

いつもお読みいただきありがとうございます。拍手もポチも励みになってます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。   此花
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