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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・84 

みぃは晩生(おくて)だから、何も知らないんだなぁ・・・といった、洸兄ちゃんの話は、すごくわかりやすかった。

だけど生まれついた性を違う性に変えるのは思ったより大変だった。
おちんちんだけを蜥蜴の尻尾のようにぽろりと切ってのけると考えていたぼくは、その日からいっぱい悩んだ。

そんなに簡単なものじゃなかったんだ。

「血栓症が出たり、肝機能障害が出ることもある。これは事実で、脅しなんかじゃないんだよ、みぃ。」

「免疫力も低下するし、性転換手術が上手くいっても、長生きは出来ないと思っていたほうがいい。」

「ぼく・・・早く死んじゃうの・・・?」

パパを残して死んじゃうと考えて落ち込んだぼくに、洸兄ちゃんは言う。

「手術したとしても、そんな先のことはわからないよ。ただね。それでも、みぃがそうしたいのなら、ぼくは反対しないよ。
みぃがこれまで、いっぱい我慢してきたこと少しは知っているからね。」

「みぃの為なら、ぼくに出来ることはなんでもやってあげる。」

小さなころから、洸兄ちゃんはいつもぼくの味方で、それは朱里兄ちゃんや翔兄ちゃんやパパともちょっと違っていた気がする。

「みぃに、昔好きな子はいるのって聞いたことあっただろ?」

「うん。」

「あの時、みぃが好きだって言ったのは女の子の名前だったから、俺はみぃは女の子の恰好をするだけで良いのかなと思ってたよ。」

「わかんない・・・自分で自分がわかんない・・・だって、おかしいんだもの。ぼく、おかしいんだもの。」

洸兄ちゃんは、支離滅裂になって泣きじゃくるぼくをひざの上に乗せて、気が済むまで長いこと抱っこして頭を撫でてくれた。

「何もおかしいことなんてないよ。ここにいるみぃは、俺の大事なみぃじゃないか。」

「洸兄ちゃん。」

「みぃがどんな道を選んでも、大切なことは、何も変わらないんだよ。いいかい。ぼくはそのために医者を選んだんだから。」

温い海の中に浸かっているようで、洸兄ちゃんの懐の中は安心できた。
洸兄ちゃんは、小さなころからぼくが泣いていると必ず上手くなだめてくれた。

ランドセルのときも、入学式のスーツのときも。
一番最初、背負ってくれたときからずっと洸兄ちゃんはぼくの味方だった。

「みぃが楽になるなら、可愛い恰好しても良いんだよ。」

「みぃはMTXかなと、思っていたけどどうなんだろうね。」

プリントアウトした資料を分かりやすくまとめて、洸兄ちゃんの笑顔は溶けた。

ぼくが楽に生きてゆけるように、いつも特別に優しかった洸兄ちゃん。
頭がよくて、かっこよくて、がんばりやさんで、ぼくの自慢だった。
ずっと側にいて、何があっても、みぃはみぃだろって、落ち込んだ時には側で励ましてくれるとずっと思っていた。

だから、洸兄ちゃんと別れる日が来るなんて、思いもよらなかった。
余りに優しいと誰かが、やきもちを焼いて意地悪するんだろうか。
神さまは、本当にいるのかなぁ。

本当に突然、洸兄ちゃんはぼくの前から奪われるようにいなくなってしまったんだ。

まだ、洸兄ちゃんの膝の上の感覚がぼくのお尻に残っていたのに、笑顔の写真には黒いリボンがかけられていた。

洸兄ちゃんは、青信号で渡っていたんだよ・・・なのに、どうして?

警察からの連絡を受けた時、何の事かわからなかった。

インターンが終わったら、患者さんの話をちゃんと聞いて上げられるお医者さんになるって言ってたのに。

みぃのために、医者になるって言ってくれたのに。

もうすぐだったのに・・・洸兄ちゃん・・・

ぼくに伸ばしてくれた、誰よりも優しい手を信号無視のトラックが奪った。
横断歩道に散乱した、たくさんの書類は全部ぼくのためのものだった。
洸兄ちゃんの大学のお友達が、風に舞う物まで集めてくれた。

病院の廊下で渡されたものには、何枚かにはタイヤの痕が付いていて、何枚かには赤黒い血が飛び散っていた。
ぼくは洸兄ちゃんに優しくしてもらっただけで、何も返してない。
瀕死の状態の洸兄ちゃんに、集中治療室でやっと会えたけど、もう名前を呼んでもくれなかった。

「洸兄ちゃん・・・」

朱里兄ちゃんも翔兄ちゃんも、そばで憔悴しきった叔父さんと叔母さんを必死に支えていた。
貰った書類を、くしゃくしゃになるほど抱きしめて、ぼくは部屋の外で大声で泣いた。

我慢するなよって、洸兄ちゃんが言ったから。

洸兄ちゃん・・・

洸兄ちゃんが、戻ってきてくれるならぼくは何だってするのに。

洸兄ちゃんを返してくれるなら、何だってします。

・・・もしも、いるのなら神さま・・・

どうか、お願い。

ぼくの全てと引き換えに、洸兄ちゃんを返して下さい。



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3 Comments

こはる  

今日も朝から泣いてるよ~

つづき読んでます・・・・・・・

運命は残酷です(涙)

何度読んでもね、此花ちんには泣かされます。

ハンカチ?イエイエ、タオルケットにして!


2011/09/11 (Sun) 10:16 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

NoTitle

kikyouさま

実は、のけぞりました。
以下、明日の文に書いたものです。ここにそのまま、先に持ってきました。↓

『深い洸兄ちゃんの思い。
みぃくんの相談に乗るためにカフェで待ち合わせして、偶然、千尋君と出会った。
そんなエピソードが不思議と無理なく繋がっていることに驚いてしまいます。
kikyouさまの「一輪花」すごい・・・とあらためて思ってしまいます。此花のこの辺りを、先にお読み頂いたわけでもないのに一つのエピソードとして時間軸すらずれていません。
改めて感動です。』

ね~・・・kikyouさま、すごいっ。(@△@;)おお~・・・
改めて驚愕しています。このお話は、何ヶ月も前に出来上がっているのですから。
洸兄ちゃん、きっと分かってくれた人がいたってよろこんでいると思います。創作物なのに、鳥肌です。ほんと、泣いちゃう・・・・

2010/10/01 (Fri) 20:20 | REPLY |   

kikyou  

NoTitle

此花さん・・・私自分の書いたssに運命を感じてしまいました。
此花さんは最後まで話しを書き終わってる方ですよね?
きっと洸の名前が出てきて、驚かれたのでは?

私が3人の従兄弟の中で洸を選んだのは、
海広の一番の理解者であり、年長であり、名前も引用しやすかった為でしがが・・・

きっと最初で最後の二人だけのデートだったのかな?
なんて思ってしまいました。
此花さんより、洸に良い贈り物が出来た気分です。

みぃちゃんこれからどうなるんでしょう・・

乗り越えて頑張ってね。



2010/10/01 (Fri) 18:53 | EDIT | REPLY |   

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