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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・80 

19歳だそうだけど、もう二ヶ月でセーフだって言うから、大人になるってことだ、きっと。
この子も、みぃみたいに十分パスしてるだろっておじさんが言うけど・・・。

パスって言うのはね、身体は男の子だけど、ちゃんと女の子の恰好をすれば女の子に見えるってこと。
ぱっと見て合格(パス)ってことかな・・・?

「家出して来たの?おうちの人、心配するよ・・・?」と、言おうと思った。

ぼくも、家出経験者だから分かる。
思い切って家を出るまでは勢いで何とかなるけど、その後心細くて悲しくて、胸の奥がきゅうっとなるんだよ。

「パパが心配するよ。」

「パパが?」

「あ、違った。おうちの人・・・?ぼくの所は、パパだけだから。」

ピンクのドレスみたいに、彼女はふんわりと笑う。

「みぃちゃん?ぼくって言うんだ、自分のこと。」

名前を呼ばれて、思わずおじさんの事をまじまじと見てしまった。

「成瀬のおじさん、ぼくの事この子にお話したの?」

少しだけねって、おじさんはウインクした。

「わたしね、自分のこと小さい頃からずっと、ぼくって言えなかったの。」

この子、みぃと同じだよって、成瀬のおじさんが紹介してくれたその子は、ぼくと同じオンナノコになりたい男の子だった。

ずっと、パパの前では男の子じゃないといけなかったから、ぼくは人前で自分のことを「ぼく」と言う。
お兄ちゃん達といるときは「みぃ」か「みぃくん」っていうんだけど。

「わたしね、本当の名前は、すごく男らしい名前なの。」

そうなんだ。教えてっていったら、ちょっと困った顔をした。

「日下部恭一郎(くさかべきょういちろう)というの。一郎って付いてるけど次男なのよ。」

「みぃちゃんは、いいなぁ。本名が、優しい感じだもの。誰にでも名前が言えるっていいよね。羨ましい。」

ちょっとだけ涙ぐんだ、恭一郎くんに聞いてみた。

「じゃあね、なんて呼べばいいのかなぁ?きょうちゃん?」

「成瀬さんが、名前くれたの。ユリアって呼んでくれる?」

可愛い名前は、ユリアちゃんのやわらかい雰囲気にとても似合っていた。
ユリアちゃんには、お父さんとお母さんとお兄ちゃんと妹が居るんだそうだ。
ご両親揃って会計士さんとかで、お兄ちゃんは洸兄ちゃんと同じ大学だって言ってた。
思わず、頭良いんだ、世の中狭いねぇなんて、知ったかぶって世間話をしてしまった。

二十歳の成人式に、振袖を着たいといったら世間体が悪いといってひどく怒られたらしい。
お父さんに、ぶたれたって言ってた。
ぼくは、思わず自分がオンナノコになりたいと言った時の、パパの凍りついた顔を思い出していた。

「カムアウトは、いつかしなくちゃいけないと思っていたから思い切って言ったんだけど・・・。」

カムアウトというのは、周囲の人に打ち明けるカミングアウトのこと。
ぼくは、勢いで言っちゃったけど、それがすごく勇気が居るってわかる。

「だからもう成人式、出れなくなっちゃったの・・・」

長い睫毛で縁取られた、大きなお人形の瞳が濡れた。


可愛いユリアちゃんにも、悲しい事情がありそうです。此花
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2 Comments

此花咲耶  

NoTitle

けいったんさま

きゃあ。成瀬のおじさんの本名、覚えていてくださったんですか。(@▽@;)びっくり~!さやかたん、一回しかでてこなかったのに。

みぃくんは、これからユリアちゃんに色々教わります。
実は、この辺り色々調べたり、図書館でたくさん本読んで勉強しました。驚くこともいっぱいありました。
けいったんさまがおお~といってくれれば嬉しいです。
コメントありがとうございました。嬉しかったです。

2010/09/27 (Mon) 22:53 | REPLY |   

けいったん  

恭一郎=ユリア

成瀬の おじさ~ん、思い切った名前を 付けたのね~
きっと 恭一郎自身が 自分の名前が 男らしくて 厭だったのが 成瀬には 痛い程 判ったんでしょうね。 だって<さやか>だもんね!!

みぃの これから進むであろう道の 在り方を ユリアから 学べという事かな?

2010/09/27 (Mon) 22:16 | REPLY |   

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