FC2ブログ

豺虎の秋月・2 

BL観潮楼秋企画【豺虎の秋月・2】

豺虎 (さいこ・あらあらしく強い悪人をたとえていう語)


背景なし・稚児・pioさま
小さな手を行儀よく三角について、月華は相模屋の前にぺたりと伏して居た。

「旦那さま。兄上たちがお留守の間、お世話になります。」

腹を揺らして、相模屋は月華を手招きして側に座らせた。

「さすがに、幼くともお武家さま。一通りのお行儀作法はお出来になりますな。見目も大層、お可愛らしい。」

ほろりと、月華の頬に相模屋が予期せぬ甘い涙が伝う。

「おや・・・どうしました?」

「いえ・・・なんでも・・・。月華は、初めて兄上方と離れて夜を過ごすので、つい心細くなりました。」

「おお、月華さまは一人寝に慣れておいでではないのですな。よいよい、夜にはこの相模屋がお添い寝して差し上げましょう。」

武士の子が、そのような甘えを言うものでは無いと、弥一郎は弟をきつく叱った。

「瀬良の男子が、そのような泣き言を言うなど、亡き父上にこの兄は顔向けもできぬ。」

これではうっかり、留守居もできぬと、笹目も共に語気を強めた。

「情けない。十一にもなって夜が心細いなどと。」

二人の兄に交互に叱られて、月華は溢れそうなほど涙を湛え恥じ入り震えた。

「あ、兄上、申し訳ございませぬ。」

「月華は言いつけどおり独りで待っておりますゆえ、どうぞお勤めお励み下さいませ。」

「まあ、まあ・・・幼い弟御が、寂しくて口にしたことですよ。お許しになってあげてください。」

「旦那さま・・・」

「大丈夫。夜も怖くないように、枕行灯に火を入れてあげましょうね。」

くすんと、月華は手の甲で頬をこすり、潤んだ目を相模屋に向けた。

「月華は兄上達がいない間、お優しい旦那さまと御一緒にお留守番いたします。」

相模屋はもう、好色な笑みを隠そうともせず、よしよしと月華の手をさすり始めた。
samurai1-2顔・pioさま samurai2-2弟顔・pioさま
兄、弥一郎は腰の刀をカチャリと差し直し、鯉口を切る音に一瞬殺気が迸ったのを弟が気が付いたが、色と商売にしか興味のない中年男は気付きもしなかった。

「相模屋どの。」

月華の仕草に呆けたような視線を送る、たわんだ腹の男は、まだいたのかと言う風な不満げな目を向けた。

「唐突ですが、月華は今、十一歳、元服前の童にございます。父なき今、烏帽子親のなり手も無くこの兄では仮元服も叶いません。」

「もし叶いますれば、相模屋どののような立派な御仁に、後見していただけたらと思います。」

「月華さまの後見人を、このわたしが?」

笹目も共に頭を下げた。

「もしそうできたら、我等どれほど肩の荷が下りるか知れませぬ。」

「さあ。月華も相模屋どのにきちんと頭を下げて、父親代わりのお願いをなさい。」

「月華はいやです。」

金も要るし、面倒なことだと、内心思いかけた相模屋は驚いた。
まだ幼い当人に断りを入れられるとは、思っても見なかった。

「おや、月華さまは、烏帽子親が相模屋では不服ですかな?」

ふるふると頭を振って、月華は涙を散らした。

「旦那さまに、そんなお願いはしたくありません。お金がたんと要るのですもの。月華は、元服などしなくてもよろしいのです。」

「ご住職さまが置いて下さるとおっしゃいましたから、暦が代われば月華は増万寺へ参ります。」

「増万寺へ・・・!?」

さすがに呻ったきり相模屋の顔が曇る。

増万寺の住職は、色町での相模屋の同好の士だった。
一人の陰間を二人で心ゆくまで嬲ったこともある。
幼いそこに、無下に二輪挿しなどして散々に破瓜し、可哀想に正気ではいられなくなった陰間は大川に身を投げた。
菰(こも)を被せた哀れな仏に、ありがたい経を唱えてやりながら、青紫に色を変えた肉の鞘を爪で弾くような住職だった。

「お武家の流儀は分かりかねますが、元服とやらにはいかほどかかりましょうや。」

忝い(かたじけない)と、兄は頭を下げ、相模屋は切り餅(小判25両)を一つ二つ手箱から取り出すと、ぽんと兄の膝元にほおリなげた。

「増万寺などへ行ったら、月華さまのように愛らしいお子は、色小姓にされて寺男や住職、果ては大勢の僧兵たちの慰み者ですよ。」

「月華が、なぐ、さみ・・・もの?」

何も分からぬ月華が、不思議そうに問うた。

「女子の代わりに、お着物を脱いで褥に入り、閨で女子のように後の壷を使って伽をするのです。」

「ひぃっ・・・そんな・・・いや、いや。月華は、慰み者などにはなりとうない・・・。」

「ああ、兄上、月華をお口減らしでお寺にやらないでください。きっと、いい子になりますから。」

とうとう、お願い・・・と告げたきり、しくしくと長兄の袴に取り縋り泣きはじめた月華の背中をさすってやりながら、相模屋はこの上なく優しい声を弾ませた。

「誰も、月華さまをそんな場所にはやったりしませんよ。さあ、兄上に仮元服のお支度のお金を預けましたからね。」

「相模屋の旦那さまぁ・・・くっすん。」

「ご安心なさい。この相模屋が美々しい直垂(ひたたれ)も誂えて進ぜましょう。月華様はほんに良いお子じゃ。」

相模屋の襟元に「すん・・・」と花の貌をうずめ、月華はいとも簡単に相模屋を篭絡していた。
samurai1背景あり兄・pioさま  samurai2背景あり弟・pioさま
「では、行って参る。」

「兄上さま。旦那さまのお使いで、奥方さまが療養中の寮へ参るのですね。」

「そうだ。ご内儀たっての願いと有って、笹目も連れてゆく。役者のような笹目に口を吸ってもらえば、風邪が治る気がするとおっしゃったそうだから。」

「後は、月華に任せて、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

短い別れの後、新月を見上げて自嘲気味に笹目が告げた。

「近頃の用心棒は、家人の女子どもの守やら、ままごとの相手やら。果ては起たなくなったご主人の男根の代理もする。この大店でもどうやら、わたしの陽根さえ勃てばいいらしいな、兄上。」

「拗ねるな、笹目。まあ、我等が留守の間に、月華が相模屋に一仕事するだろう。見たところあれは、天性の邪淫かな。」

「可哀想なことをおっしゃいますな。大好きな兄上の役に立とうと必死なのですよ、可愛いじゃありませんか。いつかは思うさま抱いておやりなさい。」

「必死だからこそ、哀れなのだ。この先の、身の処し方を考えてやらねば。月華をこのままわたしの進む冥府魔道の修羅の道へ連れて行きたくはない。」

可愛いと思うからこそだと、弥一郎は言った。

父が不名誉な死を遂げて以来、兄と弟二人、安穏と世間を渡ることも叶わなかった。
まるで色小姓のようなことまでして、兄は家族の口を漱いできたのだ。
ただ、父の仇を討ち果たし、母を安堵させるためだけに。

理不尽な仇討と思わぬでもなかったが、親の汚名を雪ぎ家名を護る、それが当時、武家に生まれたものの残酷な生涯の務めだった。

己の意志など関係なかった。
武士として本分を貫けば喝采を受けるが、それも皆本懐を遂げた場合だけだ。
先の見えない仇討に、兄は倦み疲れていた。

この仇討に、明ける日は来るだろうか・・・・と。





すごく真面目に時代物です。実は他の過去作品に時代物があって此花は、ブログ村に時代小説の登録もしているのですがここ最近はすっかり可愛いぴんくのゾウさんの持ち主にはまってしまって、登録外した方がいいかなぁ・・・と考えたりもしていました。ひさしぶりの時代物、しかも美麗挿絵もお借りしてうかれぽんちになってます。
お読みいただきありがとうございます。拍手もポチもありがとうございます。がんばりますっ!  此花
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
にほんブログ村

観潮楼さま秋企画
こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの和風綺麗お子さま達です~~!幸せ。
関連記事

4 Comments

此花咲耶  

NoTitle

けいったんさま

きゃあ・・・そうなんです。武士道残酷物語のそこが主題で書きたかったんです。
けいったんさま、わ~、さすがは師匠といわれるだけあるなぁ・・・(T▽T)←泣くほど、嬉しいらしい。
健気な月華は、きっとけいったんさまのお気に入るようにお仕事がんばります。こちらもぴんくのゾウさんです。←すごくどうでもいい情報・・・汗。
コメントありがとうございました。嬉しかったですっ!

2010/09/15 (Wed) 22:43 | REPLY |   

けいったん  

明けない夜は 。。。

仇討ちって 何て無意味な事だったんでしょうね。
仇を討った相手の息子が また 仇を討つ...限りなく 続く 負の連鎖が 永遠に 繰り返される...それを 断ち切る術は ないのかなぁ。

月華が 幼いながらに 相模屋を 相手に ひと仕事をするなんて もう 健気~(ToT)

2010/09/15 (Wed) 22:26 | REPLY |   

此花咲耶  

NoTitle

pioさま

きゃあっ。いっぱいのコメントありがとうございます。母上さまの愛あるお言葉に、鬼畜ドMの此花舞い上がりっぱなしです。
鬼畜ドSの方のお話ですと、どうやらSとMは表裏一体みたいです。Mの気持がわからなければ、責められない。きゃあっ・・・・思わずかぶっていたお淑やかな猫がずり落ちそうに、なってしまいましたっ!
時代物、大好きです。心ゆくまで悪党は悪党らしくというのが好きです。pioさまの美麗絵でお話書くのが、毎日楽しいです。本当にありがとうございます。こんな凛々しくも美々しいお侍がおバカなわけありませんって。
じゃあ、ぴんくのゾウさんはどうなんだよと言われると・・・ん~・・・(´・ω・`)ぱお~・・通訳・「ごめんねぇ~・・・」
コメントありがとうございました。嬉しかったですっ!

2010/09/15 (Wed) 22:24 | REPLY |   

pio  

こんばんわ。

どうも。毎日のようにこちらに伺い、奇声をあげて変態なことを言って去って行く者です。今夜もお約束のようにやってまいりました。
ドキドキです!冥府魔道の修羅の道を……なぜかただのおバカ侍だった顔が無情な世と、葛藤しながらも真っ直ぐに立ち向かう悲哀のヒーローの姿に見えてきました!
ひえ~。無下に……散々に破瓜し!そんな鬼畜に何も分からぬなのか小悪魔なのかよくわからない月華殿をしれっと差し出す~!!此花様はMではなく実は……鬼畜ドSなのでは!!??あっちも鬼畜!!こっちも鬼畜!!ドキドキー!!!
……もうすっかりピンクのかわいい象さんの、のほほ~んでうひゃひゃーな世界が頭から吹っ飛んで、冴え渡る鬼畜を堪能させていただいております。時代物、今まで全然疎かったですが、こんなドキドキで魑魅魍魎、魅惑的世界だったなんてどっぷりハマりそう……(知能は追いつきませんが)
今日は格段に吠えてしまいました。ドラマは週一なのにここは毎日!テンションいつ落ち着くのー!と言う訳で、今夜も奇声をあげながら去ります。。。

2010/09/15 (Wed) 21:54 | REPLY |   

Leave a comment