FC2ブログ

小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・65 

二人を送った後、成瀬に連絡を取り、夕方過ぎにホテルのラウンジで待ち合わせをした。

「よう。」

軽く手を上げた細身の男は、以前とぜんぜん変わらない・・・いや、胸周りが少し痩せたのか?
垢じみた男だと思っていたが、今は洗練された服装で印象が変わって見えた。
こうしてみると、いい男だった。

「再婚はしなかったんだな。」

「こんな親父の所に、嫁に来てくれるような女はいないよ。君こそ、とっくにいい人ができていると思ってた。」

「俺は、祥子以外は要らないんだ。」

軽い食事を取りながら、落ち着いて話がしたいなら、いっそ自宅に来ないかと成瀬が誘ってくれた。

「悪いな、実は真面目にじっくり話したいことがあるんだ。みぃの事で。」

「そうか。俺の方も折り入って話がある。」

以前に住んでいたところは、どうやら違法建築で、耐震性に引っかかって強制退去となったらしい。
みぃが家出をしたとき、わき目も振らずあのマンションを訪ねたんだと、話をした。
成瀬も、良く覚えていたなと、感心していたが、それほどみぃは切羽詰っていたのだろう。

「あのマンションは、あれからすぐお払い箱になったんすよ。追い出されたときは正直途方にくれましたね。」

いくら引っ越しても、年賀状くらいくれればよかったのにと言うと、筆不精なんでねと笑った。

「安アパートじゃ、女の子があんあん言ってるのが隣に筒抜けでさ。風紀上よろしくないって、何軒追い出されたか。」

「生活に必死で、年賀状なんて優雅なもの書く暇もありませんでしたよ。」

苦労を笑って話す成瀬は、相変わらずだった。

確かに壁の薄い、安普請のアパートじゃ音が筒抜けで隣の者は大変だろう。
言葉のとおりなら、今は会社経営も上手くいっているのだろう、洒落たエントランスのあるマンションだった。

「ここは事務所なのか?」

「兼、住居だよ。奥に、一応寝室がある。」

部屋を見渡しながら、まるで世間話をするように俺は海広の話を切り出した。

「みぃは・・。海広はこの春、中学生になるんだ。」

「早いな・・・祥子が亡くなってから、もうそんなになるんすね。」

成瀬のくゆらす煙草の煙を、思わず懐かしいと思った。

「あの時俺は、君が余りにあっさりと海広を手渡してくれたんで、誤解していたんだ。」

「誤解?」

「実は、籍も入っていないようだったし、みぃを厄介払いしたがってたんじゃないかと勝手に思っていた。」

ああ、と破顔して成瀬が見つめる。
俺は、みぃを奪うようなことをして悪かった、と頭を下げた。

「今更なんだが、今回、みぃを撮った写真を見せてもらった。」

「見もしないで、勝手にいかがわしいよこしまな物と決めつけて、すまなかった。」

深く頭を下げる俺に、成瀬は吹いた。

「よしてくださいよ。松原さん。あれは、見ようによっちゃ十分いかがわしいキワモノの類いですって。」

「まったく、変わった人だな・・・。普通は幼い子にあんなことをさせちゃ、がんがん責められて訴えられて当然なんですけどね。」

紫煙を灰皿に押し付けて、向き直った。

「で、松原さんの方も、俺に大事な話があるんでしょ?」

「ああ、こっちが深刻なんだ。」

「それは、俺に相談すればどうにかなるって言う類のもの?」

「それとも、話せば楽になるから聞いて欲しいってもの?」

あまりに成瀬の視線が優しいので、俺は抱えた荷物を降ろすように話し始めた。

「みぃが・・・みぃは、れっきとした男の子だと思うんだが、白いワンピースが着たいというんだ。」

「小学校に上がる前には、黒いランドセルが嫌だといって泣いた事があってね。」





優しい成瀬さんは、答えを持っているでしょうか。
悩み深き、パパ・・・
いつもお読みいただきありがとうございます。拍手もポチもうれしいです。励みになってます。  此花
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
にほんブログ村







関連記事

0 Comments

Leave a comment