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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・62 

「君が、側にいてよかったよ。あのまま現場にいたら、取り返しのつかない事になるかもしれなかった。」

「火の中に飛び込んで、危うく向こう側に行きかけたんだ、君のお父さんは。」

医師が海広に、柔らかな笑顔を向けた。

「お父さんを、死から助けたのは君だよ。よく、止めてくれたね。」

海広の顔が、くしゃとくずれて声が震えた。

「ち・・・違います。パパは、いつだってぼくの事大切にしてくれたのに、ぼくはいい子じゃなくて心配ばかりかけて・・・ひっ・・・く・・ご、ごめんなさ・・・い・・・」

「今度だって、ぼくが勝手に家を出て・・・っ」

噛み締めた嗚咽がみぃの言葉をさえぎった。

「ばぁか。いつだって、みぃはいい子だったよ。」

朱里がいう、それは紛れもない事実だった。
この子は自分を傷つけてまで、俺のために俺の望む男の子らしい「男の子」を演じ続けて来たのだ。
伸ばして触れた手に、小さな顔を寄せた。

「ごめ・・・なさ・・・」

「パパの望むいい子になれなくて、ごめんなさい。」

「愁都くんみたいになれなくて、ごめんなさい。」

「携帯電話、投げつけて、ごめん・・・さい。」

俺の胸元に顔を埋めて、海広は泣きながらずっと謝りどおしだった。

「サッカーが下手くそでごめんなさい・・・」

「キャッチボールが出来なくて、ごめんなさい・・・」

「みぃ。もう、いいんだよ。」

「謝らなくちゃいけないのは、みぃじゃなくてパパの方だ。」

俺の手が、みぃの柔らかな髪に触れた。
もう少しで、失う所だったこの愛おしき者・・・。

「みぃの、ばぁか!」

「叔父さんはね、みぃがいなくなったとき、おかしくなりそうだったんだよ。」

「朱里兄ちゃん?」

「怖かったよ。高速がんがん飛ばしてさ、みぃを探し出すより先に、俺が死ぬかと思った。」

やはり朱里を連れてきて、正解だった。
海広の表情が和らいでいるのを俺は認めた。

「えいっ!心配かけた罰だっ!こうしてやるっ!」

ぐりぐりと拳骨を入れられて、それでも嬉しそうに笑っていた海広。
不意に零れた涙を見られなくて、俺は背中を向ける。

「あ・・・パパ、眠るの?」

返事をしたら声が震えそうで、仕方なく返事代わりに、んっと薄い肌布団を引っ張り上げた。

「みぃ、叔父さんの隣に入って寝ちゃえ。どうせ、みぃも殆ど寝てないんだろ?」

「うん。」

朱里がとんでもない事を言い出した。
この涙腺が決壊したのをどうやって言い訳すればいいんだ・・・?勘弁してくれ。

果たして隣にもぐりこんだ海広と、おでこをつき合わせるとこちらも涙目だった。

どちらともなく笑いあって、朱里に内緒と言うようにしっと唇に指を当てた。

ほんの少し、距離が縮まった気がしていた。









ほんの少し・・・なんですけどね。今は、それでいい気がします。
いつもお読みいただきありがとうございます。拍手もポチもうれしいです。がんばりますっ!此花
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2 Comments

此花咲耶  

Re: 涙腺決壊です

> 目と鼻が壊れました。
>
> 逢えてよかったね!

大丈夫ですか?
こんなに感情移入していただいて、書き手としては嬉しくてくるくるしてしまいます。
一気読みしてくださってありがとうございます。

2010/12/30 (Thu) 01:24 | REPLY |   

小春  

涙腺決壊です

目と鼻が壊れました。

逢えてよかったね!

2010/12/29 (Wed) 23:34 | EDIT | REPLY |   

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