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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・61 

「みぃを、息子を・・・助けるんだ。離してくれ。」

「早くしないと、焔に包まれて取り返しのつかない事になるから。」

「だめっ!危ないから、あっちに行こう!」

「あぶないから、君は向こうにいってなさい。叔父さんは、みぃが助けてって、向こうで呼んでるから・・・行かないと・・。」

背後から、俺に覆いかぶさった子どもが前に回って必死に縋った。

「パパっ!何でっ?・・・ぼくの事、わからないのっ?」

「パパ!ちゃんとぼくを見て!」

困ったな、この子は何でこうまでして、必死に俺を止めるんだろう。

「放しなさい、俺の、みぃが・・・みぃが・・・」

縋る手を振り切ろうとした時、子供の泣き顔が目に留まった。

脳内に張り付いた、小さな顔との一致。

「みぃ・・・?」

「海広なのか・・・?良かった、無事だったか・・・」

失いかけた、大切な命を取り戻して俺はその場に倒れこんだ。


「パパっ!いやーーっ!!」

「パパーーッ!」

「みぃ!」

「朱里兄ちゃん・・・パパが、パパが死んじゃう。助けてっ!パパが死んじゃうーーっ・・・」

やじうまと、消火活動をする大勢の消防士のごった返す喧騒の中、俺は意識を失ったまま慌しく救急車で運ばれた。
海広の手を、白くなるほど固く握り締めて。

過去の激しいトラウマ(心的外傷)が俺を襲っていた。

運ばれてゆきながら、俺はパニックを起こして、うわごとを繰り返していたらしい。

「離してくれっ!子どもが中にいるんだ。・・・海広っ!みぃっ!」

救急隊員と、騒ぎに気付いて駆けつけた朱里に押さえつけられて、病院に着くとすぐに鎮静剤を打たれ、眠らされた。

繰り返し襲う過去のフラッシュバックと、解離性健忘・・・

あの日と同じような火事の現場が、俺の時間を7年前に逆行させた。

追体験の発作は、ひとまず薬で抑えるしかなかったのだろうと思う。
まさか、こんな風になるとは俺も想像していなかった。

押し寄せる記憶の絶望のうねりに、何度も飲まれかけた。
それほど、俺の「愛する者をもう一度失う」事への恐れは大きかったのだ。

精神と身体が、軋んで悲鳴を上げるほどに。
いっそ、崩壊した方が楽だと思えるほどに。

霞んだ意識がはっきりして来て、やがて俺は医師に自分のPTSDについて説明を聞いた。
発作を起こしてベッドでのたうってたその間、海広はずっと俺の手を握って静かに泣いていたらしい。
覚醒しても、気分はすぐれなかった。

「松原さんの場合、普通の記憶とは違いましてね。過去の現場で受けた圧倒的な衝撃が、油断するとぶり返すんです。」

「余りに大きな出来事は、単に心理的影響を残すだけではないんです。」

見覚えのある白い壁が、妙によそよそしい。

「脳に「外傷記憶」を形成し、同じように再体験させる悪夢を見させます。実際にその出来事を現実に体験しているかのような行動を取らせます。」

今回のように、同じ状況に置かれた時が一番あぶないのだと言う。
しかも周囲が、過去の出来事を知らない場合、パニックに陥った本人に対処できない事が多い。
そして周囲に知られたそこが又、覚醒した後の傷になってゆく。

今回の火事で、再び海広を失っていたら、俺の精神は修復できないほど破綻していたかもしれないと、医師は真顔で告げた。




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登場人物、過去に何か抱えている人ばかりです・・・  う~ん・・・此花
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