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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・60 

大切な全てを一夜の内に焼き尽くした、深遠の焔に全身が再び包まれた気がした。

あの日、玄関の扉が吹っ飛び、俺は気管と頭半分を焼いた。

俺は、今度も同じように大切な者を失うのか・・・?
やじうまでごった返す歩道を避けて、車道を走る。
あの日のように。
そうだ、あの時もこんな風に・・・・人ごみの中を逆送した。

ふいに、既視感に包まれて俺は叫んだ。

「通してくれっ!!海広が・・・中にいるんだ!」

今度こそ、あの日と同じように海広を失うわけにはいかなかった。

「子どもを助けるんだ!通してくれっ!」

「通してくれっ!!海広・・・みぃーっ!!」

早朝の火事は、雑居ビルに入った飲み屋から出たもので、海広にはなんの関わりもなかった。
だが、俺は殆ど半狂乱になって上る白煙に向かって叫んでいた。
目の前で、全てを失ったあの日は、俺の内側で未だ血を流している決して癒えることのない生々しい傷だった。
そして俺が声を限りに叫んで求めたのは、愁都ではなく海広の名前だった。

「消火の邪魔だから、下がりなさいっ!」

「公務執行妨害で、検挙されてもいいのか!」

そんな言葉が、行く手を阻んで来たが、俺は延焼の手を緩めない炎に向かって海広の名前を叫び続けた。
いつしか、腹のそこから沸き上がった感情は溢れる慟哭となり、俺はアスファルトにしゃがみ込み、涙と鼻とでぐちゃぐちゃになった顔で突っ伏していた。

馬鹿な・・・何をやってるんだ・・・

再び、愛するものを失うのか・・・

このままみすみす、焔に手渡してしまうのか・・・

後悔に苛まれ、慟哭したあの日から、俺は歪な愛し方しか出来なくなったのか・・・

誰よりも、幸せにしてやりたかったのに。
共に暮らした短い時間の重さを思って、呆然とする。

「海広・・・」

「海広・・・」

「海広・・・」

「あぁ、みぃ・・・俺が・・・俺のせいで・・・」

手のひらからすり抜けかけた、愛しい子どもの面影を求めた。
ひらひらと大人のワイシャツを、しどけなく引っ掛けたみぃが笑う。
失いかけて気が付く、愛の重さに俺は震えた。

火事の野次馬のあふれる中、たった一人言葉の通じない異邦人のように、呆然と俺は火の粉が舞うのを見つめていた。

この中に・・・海広が・・・いる。

たった一人で、誰にも理解されないで佇んでいる。

火の粉を浴び、猛火に行き場をなくして涙ぐんでいる。

追い詰めたのは、俺だ。

泣かせたのも俺だ。

「みぃ、今、パパが助けてやる・・・からな・・・」

「みぃ・・・泣かなくても大丈夫だ、すぐに・・・行く。」

炎に向かって、呪文のように繰り返す俺を、周囲は気がふれた男だと思ったのだろう。
海を割って国を救った聖人の行く手を、阻むものがなかったように人々は悼むように道を開けた。

炎の向こうに、涙ぐんだ少年人形が立って手招きしているような気がした。
のろのろと立ち上がり、歩を進めた。

「みぃ・・・こっちに、おいで・・・」

背後から、どんっと何かがぶつかっても、俺は真っ直ぐに火の手に顔を向けたままだった。

「パパっ!」

「だめっ!・・・行っちゃだめっ!」

過去と現実が交差する意識の中で、声の持ち主を認めるのに時間がかかった。






やっと再会できた、みぃくんとパパ。
抱きしめて欲しかったのに、パパは過去に囚われそうです・・・

いつもお読みいただきありがとうございます。拍手もポチもうれしいです。がんばりますっ!此花
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1 Comments

此花咲耶  

nichika さま

おお~、この長編までお読みくださっているんですね。
とてもBLカテには入らないと思うのですが、この作品は二度くらい手を入れました。
沢山の資料を読んで、胸が痛くなったのを覚えています。
お読みいただきありがとうございます。みぃくんは、幸せになりました。(*⌒▽⌒*)♪

2013/02/03 (Sun) 16:54 | REPLY |   

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