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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・59 

長い間、独りで不安に押しつぶされそうだった海広を思うと、ついアクセルに力が入り、スピードが上がった。
そんな俺の状態に、朱里は気が付いたのだろう。

「叔父さん、大丈夫だよ。みぃは、俺等が思っているよりずっと考えてるよ。」

高校一年の朱里さえ、こうなると俺よりも遥かに大人に思える。
夜が明けるころ、6年前に少しの間住んでいた、賃貸マンションの前に着いた。
当時さえ、かなり古臭い建物だったが今は、きちんと管理すらされていないようだ。

エレベーターが使えなさそうだったので、階段を使った。

「朱里、前にいたのは三階だったんだ。303号室。」

「ん。わかった。」

現役運動部は二段とびに駆け上がり、俺はゆっくりと海広の形跡を探った。
どうか、お願いだからそこにいてくれと、胸の中で願った。

頭上から、朱里の声が降ってくる。

「だめ!叔父さん、みぃは居ないよ。」

絶句した俺に、朱里が引導を渡した。

「もしかすると、ここに来たのかもしれないけど、人の気配がないからさ。」

「みぃは、また諦めたかな。」

「またって?」

意外と言う顔で、朱里は俺の顔をまじまじと見た。

「え・・・?みぃは、いつだって色々と諦めてきたじゃない。」

「何を?」

「何をって・・・。兄貴が自分が大人だったら赤いランドセル買ってやったのにって言ってたよ。」

「みぃは、本当は赤いランドセルが欲しかったんでしょ?結局、俺のお下がりを使ってたけどね。」

「男の子は黒いランドセルを持つものだと、パパが言うから、仕方なく赤いのは諦めたって聞いたよ。」

違うの?と、朱里が聞いてきた。

違わない・・・。

朱里の言うとおりだった。

洸が機転を利かせて、朱里のお下がりを貰ってくれなかったら、海広は恐ろしいほど黒々と輝く新品のランドセルを泣く泣く背負っていたに違いない。

そういえば、入学式に来た服も、俺ではなく洸が選んだのだ。
最初、白いワンピースが着たいといった、みぃを頭から全否定して許さなかった俺と、涙ぐむ海広の間を上手に取り持ってユニセックスなスーツを選んでくれた。
あれは、男の子でも女の子でも似合うような服だった。

「お前達の方が、みぃのことをよく分かっているようだな。」

「まあ、みぃのことは、過保護な兄貴が一番よく分かってると思うけどね。俺等は、みぃのことは兄貴にはかなわないさ。チビのときから一番面倒見てきたのも、兄貴だったし。」

思わず、深いため息が出る。
俺は、こいつ等の誰にも叶わない。

「とりあえず、この近くを探してみるか。」

周囲にはコンビニや、24時間営業のスーパーもあり、海広が立ち寄ったかもしれないと思った。

「じゃ、俺はこっちの方に行ってみるから。」

朱里と分かれて、俺は数年ぶりに辺りを歩いた。

小さな海広は、いつも抱っこをせがみ、直に触れて体温を感じるのを望んだ。
眠るときも買い物に行くときも、おんぶして背中に居るか、そうでなければ懐にいた。

とても人懐こい寂しがり屋だった海広が、学校ではいじめに合い、家では毎日一人で長い時間を過ごしていた。
背が伸び少しずつ成長してゆく海広の外見は、確かに大人に近くなっていったが、俺は何もわかっていなかった。

そんなに都合よく、内面も成長するとは限らないのに・・・。

俺は海広の手を取って、それまで置かれていた普通じゃない日常から救ってやりたいと願ったはずだが、そうじゃなかった。
自分の孤独を癒すために、犠牲にしたのだ。

俺のしたことは、あの子を孤独にしただけじゃないか・・・

重い足を引きずって、海広を探して歩く、その時。

夜が明けたばかりの街中に、突然消防車のサイレンがけたたましく鳴り響いた。

見上げると、遠くに細く黒い煙が立ち上る。

瞬時に、俺は全てを失ったあの紅蓮の日に立ち戻った。

「海広ーっ!」

名を呼んで、俺は全力で走った。






パパは過去へと囚われてしまいそうです。みぃくん~・・・
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