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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・58 

電波の届かない場所にあるか、電話に出られない・・・と、馴染みの機械音が流れる。

手に取ったフォトブックの表紙には、見覚えのある球体関節人形のように関節に黒い紐をかけて丸い関節を模し、ぎこちなくポーズを取る幼い海広の姿があった。

何の表情もない、ただ綺麗なだけの痛ましい少年人形。

であった頃の、海広の姿を頭に浮かべた。
無垢な美貌は、垢じみた子供達の中では、確かに浮いていたかもしれない。

息をしていない人形のように、表情の固いビスクドールは、ページを繰るごとに艶やかに息をつき、目線に艶やかな甘い色をつけるのだ。
ただ単に、好事家のためのキワモノ写真と言うより、深い愛情を込めて大切な者の一瞬を切取ったかのような、計算された息を呑む美しい数々の写真だった。
意図的に少しは、扇情的なものも有ったが総じてそれすら皆、芸術と名を変えてもいいほどのものだった。

カメラマンとしての成瀬の腕が、素人が見てさえ確かなのだと思う。
写真や絵画に何の造詣もない俺でも、何か夢中にさせる妖しさと愛おしさを持って、幼い海広はそこにいた。
銀色の髪の毛を広げた中に、手ひどい扱いを受けて壊れた人形は、緩く手足を縛められて転がっていた。
その硝子の瞳は、持ち主が抱き上げてくれるのを、ずっと待っていた・・・
長い睫毛に縁取られた大きな瞳に、今にも零れそうなほど涙を湛えて・・・みぃは、そこから抱き上げる俺の手をずっと待っていたのだ。

「みぃ・・・」

「今すぐ、パパが探すから。パパは、きっとみぃを探すから。」

まるで自分に言って聞かせるようにごちた。

海広が家を飛び出したと聞いて、兄貴の子供たちは皆、懸命に行きそうなところを探してくれた。
公園のブランコ、図書館の奥まった場所、レンタル屋、ペットショップ、古本屋。
どこも海広が独りで長い時間を潰すのに訪れる場所だった。

「叔父さん。みぃを殴ったんだって?」

「ああ。」

「なんで、そんな事したの。話せばわかるのに。」

「すまん、ちょっと頭に血が上って・・・」

責める視線が痛いが、自業自得だった。

「一箇所だけ、思い当たる場所が有るから、これから東京まで車を飛ばして行ってくる。」

「じゃ、俺も行くよ。」

俺を叱った朱里が同行を申し出てくれた。
海広に会ったら、なんて言葉をかけていいか考えあぐねそうで、そのまま好意に甘える事にする。
翔と洸は、何かあったら電話がかかるはずだからと、留守番を引き受けてくれた。

「警察へは届けたの?」

「いや、心当たりが有るから、そこを訪ねてからにする。」

役に立たない親父よりも、海広が心を許してこいつらに懐いていた理由が分かる。

「みぃは、お金は持ってるの?」

心配そうに翔が朱里に問う。

「昼間持ってた、うさぎのリュックがないみたいだからさ。少しは持ってるんじゃないのかな。」

「みぃは、ゲームもしないし、漫画も買わないから、お小遣い結構溜まってるって言ってたよ。」

友だちと映画に行ったり流行りの洋服を買ったり、遊園地に行く事もなく、休日の海広は何をしていたのだろうか。
兄貴の子ども達が、サッカーや勉強している間、海広は家でも独りだった。

目頭が、じんと熱くなるのを我慢して、車を駆った。







急げ、パパ。
いつもお読みいただきありがとうございます。拍手もポチもありがとうございます。
ずっと一人で書いてきたから、誰かが読んでるよって言ってくれるのがすごくうれしいです。 此花
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2 Comments

此花咲耶  

NoTitle

けいったんさま

今頃の季節だったら、きっと寒くも無いのにね~・・・あ、でも、今度は熱中症にやられたり。

少しずつ、みぃくんのことを知りパパは愕然としています。
でも、もっと驚くことがいっぱい有るんだよね~
「けいったんお姉さん、ありがとぉ。パパがお迎え来るまで泣かずにがんばります。」←みぃくん。

コメントありがとうございました、うれしかったですっ!

2010/09/06 (Mon) 01:21 | REPLY |   

けいったん  

パパーー!

ようやく パパも みぃくんの事を 分かってきた! のかな?

みぃくん 今頃 お膝を抱えて 寒さに震え 泣いてるよ(ToT)
成瀬とも 連絡は つかないし 。。。

みぃく~ん、パパが着くまで 頑張ってねー。

2010/09/05 (Sun) 23:51 | REPLY |   

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