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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・56 

海広の小さな頬をぶったのは、一緒に暮らし始めて、初めてだったと思う。
聞き分け無くぐずったことなど一度も無かったから。
真っ白になった顔を引きつらせながら必死で、初めて海広は俺に食って掛かった。
いつも穏やかな子どもで、逆らった事もないし、何かあってもうつむいて涙ぐんでいるような子どもだった。
初めてぶちまけた本音の言葉は、俺の胸に刺さった。

「パパの一番大切なのは、いつだって愁都くんだった。」と、海広は告げた。

そんなことはないと言ってやればよかったのに、俺は海広の姿に動転してしまったのだ。
少女のような姿は、亡くなった母親によく似た華奢な女の子にしか見えなかった。
女の子の姿で、固まってしまった息子に俺はかける言葉を捜したが、何も無かったのだ。
思わず、むしり取るように着ていたワンピースを引き裂いてしまった。
自分の理解を超えて、海広の何かが違ったような気がして俺は動転し、激昂した。
その姿を、許せないとさえ思った。

俺の中で、海広は男の子らしく成長して、誰よりも幸せな人生を掴むはずだった。
死んでしまった愁都の分まで、全てを賭けて幸せにしてやりたいと願っただけなのに、何かが通じていなかった。

開いた携帯に、たった一枚遺された愁都の写真。
おそらく、俺が風呂にでも入っているときに仕事先からの電話を俺に取り次ぐときに見たんだろう。

みぃ、お前には、これが許せなかったのか・・・?
これがお前を、そんなにも傷つけたのか?

生きている海広と、今はない愁都を比べる事などできないと、何故きちんと伝えてやらなかったのか、今更ながらに俺は後悔していた。
海広が泣きながら、携帯を投げつけたとき、優先順位の選択を俺は間違ったのだ。
思わず拾い上げた携帯は、何ともなくてほっとしたものの、顔色を変えて飛びついた俺に向けた海広の顔は、例えようもない。
決定的な失敗は、どんなに後悔しても埋まらない溝となり、涙を浮かべて踵(きびす)を返す悲しげな小さな顔は、俺の脳裏に張り付いた。

「叔父さん、だめだ・・・みぃは、学校の方にはいない。」

息を切らして、洸が帰って来た。
家を飛び出た海広をすぐに追ったが、行方が知れなかった。

「駅は?」

「バス停の方はみたけど、電車に飛び乗る事もあるかな?」

もしも電車に海広が乗ったとしたなら、行く先は東京しかなかった。
ほんの少しの間、二人で暮らした部屋がその都会にあったのだ。
海広の友人に何か聞けたらと思ったが、そこで俺は愕然とした。

「洸、みぃの友達って知っているか?」

仕事にかまけてばかりで、俺は大切な息子の友人の名前さえ知らなかった。

「ぼくは、聞いたことが無い。最近は、個人の連絡網とか名簿もないんだよ。個人情報の保護とかでさ。
学校に電話した方が、早いかも。」

すぐに学校に電話して、松原海広の友人関係を教えてくれと聞いたが、担任は口を濁した。

「さあ・・・海広君は、独りでいるのが多かったようです。」

「ひとり?」

すぐ側にいたらしい、保健室の養護の先生と代わり、話をすることが出来た。

「養護の笹塚です。ご家族の方とは、いつかお話できればと、思っていました。」

「お問い合わせは、海広君の傷の事でしょうか。」

一体、何を言ってるんだ・・・?

「傷・・・?ですか・・・?」

電話をかけながら、洸を見やったら視線を外した。





何も知らない自分に、呆然とするパパです。・・・親って、いつも後で気が付いてあたふたするんだよなぁ・・・此花
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2 Comments

此花咲耶  

NoTitle

けいったんさま

見えてるつもり、知っているつもりで、本当は何も分かっていないことがいっぱいあります。
で、心の中でうんと思っていても、やっぱり言葉にしないと誰にも届かないのも本当です。
パパはこれから、うんと努力してみぃくんのことを理解しようとがんばります。

狂秋はあんぽんたん丸出しで、終ってしまいました。
しばらくこんな感じで続いた後・・・えらいことにっ!ってテクがないので行き着く先は再び逃亡の恐れありかも・・・(/TДT)/
コメントありがとうございました。この先もがんばりますっ!

2010/09/03 (Fri) 21:38 | REPLY |   

けいったん  

ほんとですね...

自分の子供の事を 知っているつもりが 色々な面の 一部でしかないと 思うことが ありますねー
ただ それは 人間誰にも 当て嵌まるものですが。

パパも 今からでも遅くないから みぃくん自身を ちゃ~んと 見て欲しいですね! みいくんの 心からの声を 聞いたんだから・・・

此花さま、【狂秋・悩める少年-1】は 何度読んでも ヒィーヒィもので 笑いが 止まらない (*>o<*)...やっぱ 此花ちゃん、最高っす♪...byebye☆

2010/09/03 (Fri) 16:10 | REPLY |   

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