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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・52 

ぼくの頭に載った、くるんくるんの栗色のかつらを髪留めごとむしり取ると、パパは思い切り玄関に叩き付けた。
きっと、ものすごく怒っていて一瞬言葉も失ったのだろうと思う。

「海広!俺が留守の間に、おまえはいつもこんなことをしてたのか!」

「ち・・・違うっ、違うよ、パパ。」

必死に、それは違うと叫んでも、もうパパは話を聞く耳を持たなかった。
ぼくの肩をがくがくと強く揺らすと、着ていた白いワンピースに手をかけ肩から思い切り引き裂いた。

「駄目っ!パパ。」

「これは、お友達に借りたものだから・・・きゃあっ・・・!」

いつもは優しいパパの目が、怒りで血走って怖かった。
思わず洸兄ちゃんに助けを求めて縋ろうとしたけれど、パパはぼくを腕を捕まえると、今度は思い切り拳を振り上げ頬をぶった。
ぼくは、思い切り玄関の床に叩きつけられて、呆然としていた。
こんなに激昂するパパを見たのは、いつか校長先生が家に来たとき以来だった。

「そんな格好がしたいのなら、どこへでも行ってすればいい!」

「パパの子どもは、男の子なんだ。そんなひらひらしたスカートをはいて喜ぶようなオンナミタイナ子どもは、パパの子どもじゃない。」

オンナミタイナ子どもは、パパの子どもじゃない・・・?

頭から氷水をかけられたような、気がした。

痛い・・・
胸が裂けて、心臓から血が吹いた気がする。

オンナミタイナ子どもは、パパの子どもでいられないの・・・・?

オンナミタイナぼくは、パパは必要ないの・・・?

何度も頭の中で、同じ言葉が繰り返された。

『オンナミタイナ子どもは、パパの子どもじゃない。』

ぼくは、裂けた借り物のワンピースからそっと足を抜くと、静かにトレーナーを着てデニムを履いた。
飛んでしまった栗色のかつらを拾って、紙袋に入れて、側で何も言えずに佇んでいた洸兄ちゃんに同じように無言で渡した。

頭の中で、パパの言った『オンナミタイナ子どもはパパの子どもじゃない・・・』と言う言葉が、ずっとこだましていた。

ぶたれた頬が、じんじんと傷む・・・きっと紅くなってる・・・

静かに流れるぼくの涙を認めて、言い訳があるならしてみろと、パパがつっけんどんに言った。
洸兄ちゃんが、何か言いかけたまま、拳を握り締めて立ち尽くしていた。
パパの引き裂いた、白いワンピース。
その下にあった、貧弱な白い小さな身体が震えていたのを見たでしょう・・・?

ねぇ、パパ。

パパが引き裂いて、剥きだしにしたのは、ぼくの心だったんだよ。
今は、きっと溢れた血で真っ赤に染まってる。

「パパ・・・。」

ぼくは、きちんとパパの顔を見た。
伝えたいと思った。

「あのね、パパの子どもは昔から、愁都くんだけだったよ。」

パパの顔色が変わった。

「ぼくが何をしても、どんなにがんばっても、パパの見ていたのは、いつも愁都くんだけなんだよ。」

「海広・・・何を・・・」

パパが呻いた。

パパは気が付かない振りをしていただろうけど、ぼくはずっと知っていたし、思っていた。

「ぼくがどんなにがんばっても・・・オンナノコミタイナぼくは、パパの大切な愁都くんにはなれないんだ。」

「だって・・・だってね・・・」

「だって・・・」

頭の中で、パパの言った言葉が何度も繰り返されていた。

『オンナミタイナ子どもは、パパの子どもじゃない・・・・』

ぼくは、とうとう思い切って告げてしまった。
その一言を言ってしまえば、もうぼくはパパの側にはいられなくなる。
大好きなパパの側に居られなくなる。

ちゃんと、分かっていたのに。
もう、お終いだ・・・

「ぼくは、・・・オンナノコになりたいんだもの。」

「おちんちんが付いていたって、ぼくの心の中にはいつだってオンナノコが住んでいるんだもの。」

ぼくは玄関で、立ち尽くしたパパが握りしめていた大切な携帯電話を奪うと、部屋の奥に向かって投げつけた。
当然、パパは猛烈な勢いで携帯電話に向かった。
分かっていたけど、もう自嘲気味に笑うしかなかった。

「ほら・・・ね。パパの一番は、いつだって電話の中の愁都くんでしょう・・・?」

「ぼくは・・・はじめっから愁都君の代わりなんだもの・・・」

心の中の何かが、音を立てて粉々になってゆく。






いつもお読みいただき、ありがとうございます。拍手もポチもありがとうございます。 形に見えるのでうれしいです。感涙っ! 此花
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2 Comments

此花咲耶  

Re: え~んえん、

> 小春、泣きすぎて目と頭痛いです、
>
> みぃちゃん可哀想だよ!

小春さん、きっと感性豊な方なんだろうなぁ・・・
いっぱい泣いてくださってありがとうございます。
このお話は、書きながら泣いた場所がたくさんあります。

2010/12/30 (Thu) 01:19 | REPLY |   

小春  

え~んえん、

小春、泣きすぎて目と頭痛いです、

みぃちゃん可哀想だよ!

2010/12/29 (Wed) 23:07 | EDIT | REPLY |   

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