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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・9 

小さな訪問客が帰った後、ふと時計を眺めれば既に昼前だった。
どんなに空虚な心を抱えていようと、悲しみに溺れていようと腹は空く。
生きている限りついて回る欲求は、驚くほど残酷だ。
腹の空く自分を恥じた。
真新しい位牌を三柱、取り出して、日の差すテーブルに並べた。

「しばらくここで暮らすんだ。」

誰に言うとも無く、告げた。

「居心地は良くないかもしれないけど、しばらく辛抱してくれよ。」

「さて。病院へ行ったら、飯でも食うかな。」

頭に包帯を巻いているのはどこにいても、悪目立ちするらしい。
医者の紹介状があるので、とりあえず近くの病院へガーゼを換えに行く。
強引に退院したのは、傷口を見れば分かるらしい。
ガーゼをめくると、看護師が傷のひどさに息を呑むのが分かった。
傷はいつまでじくじくと乾かず、治りは遅かった。

「松原さん、この傷化膿してますよ。熱出ませんでしたか?」

俺は、笑ってごまかした。
確かに少し熱っぽい。

「これで案外、丈夫に出来てるんです。」

「若いからって、過信しちゃいけませんよ。抗生物質、注射と飲み薬で処方しておきますから。」

紹介状に目を落として、医者は言った。

「眠り薬は、今も毎日必要ですか?」

「ええ。」

カルテに書き込む背中に、出来もしない通院する約束をして、俺は病院を後にした。

飯は、コンビニ弁当でいい。
ついでに退屈しのぎに、週刊誌を適当に見繕って買う。
ふと、「みぃくん」と名乗った子どもを思い出して、二つ、三つ、愁都の好きだった駄菓子を放りこむ。
頬は子どもらしく丸かったが、手足はかわいそうなほど細かった。
会えるだろうか。
関わると、何か厄介な事になる予感がする金髪の男を思い浮かべて、ふと気が重くなった。

階下で又、エレベーターを待っていないかなと思ったが、いなかった。
我ながら、あの子にどんな期待をしていたのかと笑えた。
誰とも関わりになりたくないと、この町に流れてきて知り合いを作ろうとしているのは、人恋しいからだろうか。
鈍く振動してエレベーターは停まった。

303号室。

扉は細く開いていた。
長く鍵をかけて家を出る習慣がなかったせいか、油断するとすぐに忘れる。
カード類は全て持って出ていたが、位牌がそのまま置いてある。
待ち人がいるはずも無いのに、ほんの少し焦ってドアに手を掛けた。
人の気配をうかがっている自分に気が付いて、呆れた。



毎日、暑いですね。
半分、チョコレートでできているので、溶けそうです。此花
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