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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・7 

まだ、まともな会話すら成立しない。
幼い子ども相手に、意思の疎通を図るのはもう止めた。
頭に包帯を巻いた、変なおじさんに声をかけられたと、誰かに言われるのもどうかと思う。

開いたエレベーターに、乗り込もうとしたとき、入れ違いに降りた金髪の若い男が、子どもを捕まえた。
ジャラジャラと、耳や、鼻や、唇にまでピアスをした、整ってはいるけれどどこか不潔な印象の青年。

「こら、みぃ、抜け出すんじゃねぇって言ってるだろう。」

エレベーターが閉まる寸前、若い父親かなと思った男が、苛々と吐いた言葉に耳を疑った。

「逃げんなよ。仕事が終わるまでは、どんなに泣いても、飯食わせねぇからな。」

エレベーターは俺を階上へと運び、大きな目をこちらへ向けた子どもは扉の向こうに消えた。

まあ、いい。
俺には関わりの無いことだ。
煩わしいことは、全てもういい。

無理な旅で疲れていた。
慣れない寝具に転がって、俺は浅い眠りを得た。

朝は、大抵、包丁の音で目が覚める。
パン食が多かった我が家の朝食は、お袋を引き取って以来味噌汁と、納豆と卵焼き、そして米の飯になった。

「あなた。起きて、時間よ。」

「パパ!」

俺は知っていた。
ここで目を覚ませば、夢になる。
まだ、精神が現実を認めるのを拒否しているんだろう。
目を開ければ消え失せる懐かしい風景が、瞼の裏で広がっていた。
黒焦げの指先に触れたときも、燃え残りの衣類に目をやったときも涙は出なかったくせに、あれから毎朝、同じ夢を見て頬が濡れる。
誰かが背中を優しく撫ぜる。

「愁・・・今、起きる。」

そうつぶやいて薄く目を開け、合った視線に俺は飛び起きた。

「誰だ。」

「みぃくん。」

「みぃくんは・・・どこの子ですか?」

我ながら、素っ頓狂な質問をしてしまった。
何といえば良いんだろう。

「あなたの、おうちはどこですか?」

そういえば、これ。
愁都が歌っていたな、確か犬のおまわりさんだ。


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