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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・5 

覚えているのは、止める手を振り切って、玄関に辿り着き、扉に手をかけたところまでだ。
一気に酸素が入り込み、密閉された空間はバックドラフトを起こし爆発した。
爆風を吸い込み、一瞬で気管と上半身の出ている所を焼いた。
そのまま車道まで飛ばされて、アスファルトで頭を打ち気を失ったらしい。

「しばらく入院していただきます。」

遠くで医師の声がする。

「右側のこめかみから後頭部にかけての火傷は、お気の毒ですが痕になるでしょう。」

「皮膚移植が必要です。」

俺は、手術を拒否した。
元通りにして、誰が喜ぶんだ?

「いつまでも、素敵な旦那様でいてね。」

美千代、俺より4つも下の君が、なぜ居ない?
おふくろ。
孝行したいときに、親は居ないって本当だな。

「かっこいいパパが好き。」

・・・パパに、そう言った愁都は、もう居ないじゃないか。

どこにも居ないじゃないか。

火災保険と、生命保険。
まとまった金が手に入ったが、そのまま銀行の貸金庫に預けた。
株券なども、預けてあった。
当座の少しばかりを手元において、退院手続きをした俺は、少ない荷物を持って駅に向かった。

どこでもいい。
知った者の居ない所なら。
向けられる哀れみの視線に、返す言葉を俺は知らない。

会社には郵送で退職願を送り、家の跡地は更地にして不動産屋に預けた。

「いくらでもいい。買いたい人が居たら連絡してくれ。」

携帯電話だけが、おれと世間をつなぐ。
寝台列車で線路のつなぎ目を数え、眠れぬまま朝、知らない町に着いた。

雑踏の町。
埋もれるには、ちょうどいい。


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