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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・3 

暖簾をくぐって、親父に「ご馳走さん」と声をかけ、ふと見上げた東の空が、赤く染まっているのに気付く。
何台もの消防車と救急車とパトカーが、忙しなく赤色灯を回転させながら横を駆け抜けて行く。
その時、俺は何となく胸騒ぎがしたのだ。
携帯で妻に電話をかけたが、呼び出し音が尽きても、彼女は出なかった。

やじうまでごった返す歩道を避け、俺は車道を走った。
火の上がった方向には、新築したばかりの自宅があった。

燃え盛る火の粉を浴びるほど近くに来て、俺の血はざっと音を立てて逆流した。
眼前に広がる、焔に包まれた我が家・・・

「おふくろ!・・・愁都っ!美千代っ!」

獣のように咆哮をあげ、俺は火の中に飛び込みたかった。
辺りに居た数人の消防団員に羽交い絞めにされ、俺は死に物狂いで叫んだ。

「離せっ!離してくれっ!」

「中に人が!まだ、家族が居るんだ!」

駄目だ、死にたいのかと怒号が飛び交う中、死んでもいいから行かせてくれと叫んだような気がする。

毎朝、仕事に出かけるたびに頬にそっと柔らかな唇を押し付けて

「パパ、行ってらっしゃい。」

と言う、愁都の顔が浮かんだ。
春から幼稚園に行くのだと、黄色のぼうしを被ってくるりと回った。
肩掛けかばんには、俺が名前をマジックで書いた。

『まつばら しゅうと』

「今日は、お母さんのお好きな筑前煮よ。お酒は、家で飲んでね。」

「吟醸酒を、開けてくれる?」

「いいわよ。あたしも一緒に飲む。」

笑って、約束したのに。

「気をつけて行くんだよ。」

「はい、はい。」

顔も向けず、背中で軽く手を振ったのが、おふくろと交わした最後の挨拶だった。





きゃあ~、初めて拍手をいただきました。
しかも初めてコメで感想までいただきました。ありがとうございます。 此花、泣きそうです←不憫・・・

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