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小説・初恋・21 

片膝を付き、略式で頭を下げて辞そうとしたとき、西洋人が側に来て、感動の面持ちで颯に握手を求めた。


「素晴らしいです!」


ジョサイア・コンドルという名を、通詞が伝えた。


そして颯は動転しながらも、周囲が驚くほど見事に、流暢な英語で挨拶をした。


「英語はどこで?」


「私立華桜陰高校で、モンテスキュウ教授に師事しています。」


「コンドル、私の自慢の息子なんだ。」


父がやってきて、覗き込むように話に入った。


「湖上さん。」


「父上。お知り合いでしたか?」


いたずら好きの子供のように、頷きながら父は笑った。

「政府がコンドルを招聘したのを、知っているだろう。

私も及ばずながら、通詞として力を貸したということだ。」


建築家と颯の話は弾み、大学で教授として後進を指導しながら、精力的に多くの建物を手がけていると、コンドルは語った。


「政府の依頼で、この如月邸のような大きな広間を備えた建物に、着工したところです。」


新しい西洋風の建物が、これから続々と建築されてゆくはずだと、コンドルは語った。


外国と交際する上で、儀礼的な物はこれまで何一つ重要だと思われていなかった。

これまで日本に存在しなかった、夜会、舞踏会などを違和感なく高官が理解してこそ、西欧列国に並ぶものと時の外務卿は考えた。


そして多くの紳士淑女は、不慣れな西洋文明の吸収に必死になった。


コンドルの語る話は、建築に興味を持つ颯にとってとても惹かれるものだった。


「その建物は、既に名前も決まっています。

『鹿鳴館』というのです。」


高校を出て、帝大に入ったら是非あなたの弟子にして欲しいと颯は告げ、コンドルは待っていると約束をしてくれた。


その辺りは、父に通訳してもらいながら颯の胸は未来に向けて高鳴っていた。


しかも、かなり喜ばしい事実を、父はさらりと告げた。

「そうだ颯。

領民にも苦労を掛けたが、実は北海道で石炭が出たんだ。」


父はこともなげに、事業の成功を告げた。


「石炭?・・・確か、炭鉱事業からは、撤退したんじゃなかったんですか?」


「父上にはそういうことにしていたんだ。

どうやら埋蔵量は九州のものより多いらしい。

技師が興奮して大変だったが、父上に面目が立って、本当に良かった。」


「お前たちにも、苦労をかけてしまったね。」


領地が元通りになるのなら、弟妹の心配をせずに好きなことが出来る。


今日の夜会は何という、幸運な出会いに恵まれたものだったろう・・・


颯は夢見心地で、礼を言うつもりで清輝と二人、奏を探したが華やかな人の群れのどこにも探すことは出来なかった。


颯は高揚した気分で、仕方なく誰よりも早く、如月奏の邸宅を後にした。



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