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小説・初恋・8 

颯には、それほど大したことではなかったが相手の自尊心はかなり傷ついたらしかった。


「え?この馬は星龍号というのか?

ぼくの馬と同名・・・あっ!」


かけた言葉に、返って来たのは乗馬鞭の一振りだった。


辛うじてよけたが、かわしたのも気に入らなかったらしい。


先ほどの教室の花の風情など、見事に散らして激昂した。


「僕の馬は、観賞用などではないっ!」


しばらくかわしたが、なおもしつこく向かってくるので、仕方なく習い覚えた柔の足払いをかけた。

ぺたりと・・・見事なまでにぺたりと(思わずおそらく人生で初めて人前で)しりもちをついた、如月奏はたちまち蒼白になった。


小姓と取り巻きの手を借りて、何とか立ち上がったが相当の衝撃を受けたものか、再び脳貧血を起こしたように足元から崩れ落た。


「軟弱だなー・・・」とさすがに声にはしなかったが、向けられた燃える瞳は、激しい怒気をはらむ。


「君の名は?」


「湖上颯。」


「覚えておこう。」


「207号室だ、良かったら遊びに来たまえ。」


少しは世間を知る清輝は、さすがに呆れてため息をついた。

「清輝・・・何か言いたそうだな?」


「颯さま。

きっと、すごく憎まれましたよ、先ほどの佳人に。」


「そうなのか?」


「ああ、・・・もう鈍いったら。」

「何だか、向こうが気の毒になる・・・」


自尊心だけで生きているような、公家華族にしりもちを付かせるなんてと、清輝はその後も文句を言ったが颯は葦毛の同名の馬に夢中だった。


「裸のままで良いから、馬場を駆けさせてもらえないかしら・・・ねぇ、おまえ。」


頬を寄せて囁くように、馬には優しかった・・・


「絶対に、無理ですっ!」

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