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小説・初恋・7(馬小屋) 

華桜陰高校の広い敷地内には、厩舎だけでなく十分な大きさの馬場もあった。


軽いいななきと、懐かしい飼葉の匂いにつられて、颯と清輝は散歩がてら馬小屋までやって来た。


世話をする厩務員は何人もいたし、愛馬と別れがたく馬車ごと馬丁も連れて来たという猛者もいた。


貴人のやることは、時々考えも及ばない。

ただ彼らの連れて来た馬は、どちらかと言うと馬術競技を競うための愛玩の粋を超えないもので、軍馬として連れて来たものではなかった。


その辺は颯と清輝には理解できない所だった。

戦場で活躍するには、利口な馬は血の匂いを嫌がらず、人を踏みつけることを厭わないよう教えることが求められる。


誰の愛馬かは知らないが、寄せてきた葦毛の鼻面をよしよしとなでた。


元々武家の出の颯には、軍馬の調教や世話は普通に自分でしてきたから、馬を眺めるのが好きだった。


「皆、上等のアラビア馬ばかりだ。」


「ああ、星龍号にあいたいな・・・」


湖上家の星龍号は、手綱を用いずとも飼い主の声に反応し、砲弾の中をかいくぐって祖父を救った名馬だった。


騎兵が用いる武器の重さに耐え、今や軍馬の中には、敵兵を蹴ったり、噛み付いたりするよう訓練されたものもいると祖父に聞いた。

「休校になったら、星龍号に会いに帰りますか?」


清輝は颯の遠乗りに付き合ったことがある。


自分の馬も、けして駄馬などではなかったが人馬一体となった、二人には到底追いつけなかった。


「まさか。星龍号に会いたくて帰りましたなんて、言えるものか。」


「でも・・・できれば、ここに連れて来たかったな、僕も。」


どの馬も丁寧にブラシをかけられて、上部の明り取りから細く陽が入るたび、光の粒子を弾いてたてがみが輝いた。

重い引き戸が全て放たれ、誰かが入ってきた。


「・・・よく、会う・・・」


自分達が行く方向を、同じように回っているのか?と、不思議に思った。


遠目に目立つ、その群れは馬小屋に似合わぬやたら小奇麗な一群れだった。


「・・・出ましょう。」


清輝の言葉に従ったのは、何となく彼等から責めるような視線を感じたからだ。


颯の性格は、よく知っているつもりだった。

「無断で、奏さまの愛馬に触るな。」


なるほど、目を引く派手な毛並みは、飼い主の好みらしい・・・


取り巻きならそういうだろう・・・と思ったら、つい鼻先で笑ってしまった颯。


「誰の愛馬かは知らなかったが、これはいい馬だね。」


「観賞用としては、最高級だ。」


喧嘩を売るつもりなど、さらさらなかったのだがどうやらその言葉は、相手の癇に激しく障ったらしい。


柳眉がひそめられ、白面がほんの少し上気した。


「観賞用だと・・・?ぼくの星龍号が?」



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