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小説・初恋・6 

静かに滑るように扉が開き・・・


小姓と、数人の取り巻きを従えて、噂の如月奏が教室に入ってきた。


皆、視線だけで追いかけて言葉は発しない。


周囲を見渡して、まるで誰もいないかのように、当時はまだ珍しい黒板に触れ、そっと頬を寄せた。


「これは、墨汁に柿渋を重ねてあるのだっけ・・・?」


向き直って、誰に言うとも無く、可愛らしく小首をかしげて問うた。


「なんだ、誰も知らないのか・・・」


ただ、それだけのことなのに、妙にその場が華やいでしまったのはどういうことなのか。


颯と清輝は顔を見合わせた。

これがもし上級生の居る学校なら、美貌の如月奏を取り合って騒乱が起きるだろうと、小さな声で言葉を交わした。


決して相容れない人種だと、二人には本能で分かっていたのかもしれなかった。


武家の互いを高めあう衆道というよりも、むしろ僧兵の囲われものの色小姓といった風情の、奏の持つ隠微な脆さとか危うさが陽光の中しか知らない二人を戸惑わせたのかもしれない。


「ああいう手合いは、触らぬ神に、祟りなし。」


「ぼくは、迷うことなく医者に。颯さまは?」


「そうだなあ・・・コンドルのような建築家になれたらいいと思うけど。

官費留学の道は厳しいから、何とか道を探らないとね。」

そんなお気楽な会話は、明日からは出来なくなる。


良し悪しはともかくとして、二人は事件に関わって奏を深く知ることになるのだった・・・

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