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小説・初恋・3 

入学式は、天鵝絨の幕の向こうの御下賜された「御真影」を拝む所から始まり、厳かに粛々と行われた。


当時の政府役人の退屈な挨拶がすみ、校長が誓詞を読み上げた後、新入生代表が宣誓することになっていた。


「新入生代表、如月奏(きさらぎかなで)」


それまで無音だった大講堂に、前方から控えめにざわ・・・と、さざ波のように息を呑む音が走った。


「・・・男子校だろ、ここ・・・」


「女性・・・?」


そんな声がそこかしこに起きて、挨拶を受ける初代学校長の咳払いで、構内は再び静まった。


少女の面を持つ一際華奢な少年が、杖で海面を割る聖人の様に進み出て、壇上でご真影に向かって一礼する。

幅の広い高いカラーと、ゆるく結んだ幅広の絹のリボンが、余計に首を細く見せていた。

一目で誂えと分かる皺の無い、細い洋袴と襟の付いたテーラード・・・

「女性だ・・・」

「しかも飛び切りの麗人だ・・・」


颯一郎も清輝も、思わず目を見張った。


癖のない細い髪が、綺麗に撫で付けられて宣誓書を読む間に、二度ほどはらりと額にかかったのを、優雅に指先で撫で上げた。


神経質そうな細い眉と、血統のよさを感じさせる形のよい切れ長の一重瞼、そして細い鼻梁と顎・・・


絵師ならきっと、描いてみたいと思うだろう。

生まれ付いての公家華族というのは、錦絵から抜け出したような、こういう姿をしてるのかと颯は内心驚いた。


颯の家で付き合いのある大名出身の華族は、殆どが武家上がりで、下級士族の者も多く、新政府に実力で登用され、付随される役職名のように拝命したものが多かったのだ。


優美な京人形のような美貌で、細腰を折るその姿さえ同級生のため息を誘った。


おそらく如月奏は、講堂で視線を一身に受けたその日から男子校に必要な装飾品、もしくは君臨する王になった。


柔な姿に似合わぬ、凛と張った声は講堂に響き、壇上から奏が去った後も、しばらくしんとしていた。

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