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愛し君の頭上に花降る 19 【最終話】 

困り果てた祥一朗は、助けを求めるように、扉の傍に控えていた最上家令を見た。
最上家令は一瞬躊躇したが、やがて祥一朗に向かって口を開いた。
主人の元に輿入れしてきた病身の美しい花嫁の、まるで花嫁道具の一つのようにして鳴澤家にやってきた青年の本質は、あの頃と変わっていない。
変わっているとしたら、恋を失って以来、すっかり臆病になってしまった事くらいだろうか。

「わたくしが口にするのはおこがましいと存じますが、あえて申し上げます。望月先生、その方がご持参された花をご存じでしょうか」

少年が何か握っているのを認めて、思わず聞いてしまった。

「花……しなびたこの草が、何かの花なのか?」

「それは、吾亦紅です……まだ色づいていませんけど、赤くなります。屋敷の庭の端にも自生しております。地味な花ですが、この方は望月先生にお見せしたかったようですよ。握りしめていたから、潰れて駄目になってしまったんですね」

「ああ……そういえば別れるときに、この子とそんな話をしたね。故郷の庭に咲いていると言っていた。これが吾亦紅か、地味な花だ」

「この花のいわれは、我(わたし)もあなたを恋しく思うというのが通説のようですが、一説では、吾亦(われも)紅(こうありたい)と、言うのだそうですよ。この方は、望月先生を訪ねて見えた時、望月先生のようになりたいとおっしゃいました。いじらしいじゃありませんか」

「……ばかだね……ただの気まぐれを真に受けて……ぼくのようになったって、いいことなど何もありはしないのに……」

声が震える……
こんな欠陥だらけの自分を欲しいと、光に包まれた薔薇色の少年は言う。
これまで誰にも求められたことのない祥一朗は、真っ直ぐに向けられた思いを信じていいのかどうか戸惑っていた。
だが、愛に餓えた心に芽生えた情動は、もうごまかしようがなかった。
意を決した長い指が、寝台に突っ伏した少年の柔らかな髪に伸びると、そっと触れた。
はっと驚いた少年が、潤んだ瞳で祥一朗を見上げる。
震えた唇が、思いを迸らせた。

「旦那さまが好きです。お別れしたあの日から、ずっと……ずっとお逢いしたかった……!」

「あぁ……」

寂しい祥一朗の心の中で、頑なな何かが決壊して崩れてゆく。
湧き出る素直な感情が、胸の奥の氷を溶かし、美しい雫となって頬を伝わり落ちた。

「ぼくも……君に逢いたかったよ……もう一度、逢えるなんて考えてもいなかった。まして、こんな風に……」

両の手で少年を抱き寄せると、体温を持った確かな重みが現実になる。

「旦那さま……ぼくと一緒に……生きてください」

それは、祥一朗が別れの日、少年に告げた言葉だった。
幾つもの諦めと遺棄が染みついた腕で、祥一朗は初めて手に入れた「愛するもの」を抱きしめた。





やっと、着地できました。
望月祥一朗も、過去に出逢った少年と共に、未来に向かって生きることができる気がします。
次回更新は、その後の「おまけ」を書きます。
木曜日更新予定です。
どうぞよろしくお願いします。



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