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小説・約束・60 

そして息子は、改めて初めての願い事を父にした。

「あなたに力があるのなら、どうか良平のお父さんを探して下さい。彼は、きっと南方の野戦病院に居るはずだから。」

南方戦線はアッツ島、ラバウルと玉砕が相次いでいた。
南方と言う条件で探すと果てしなく広かったが、ありったけのコネと人脈と金を使って、トマスは請け負った。
やがてトマスが個人的に雇った情報収集の専門家が、多くの渡航経験者が、その地に送られているリストを発見する。
日本軍の暗号は、全て解き明かされ機密はどこにもない。

「It is a promise. 」

「Thank you・・・」

凛斗が父の傍らで、学ぶことは多かった。
「佐藤良輔」を探すと約束した通り、トマスはついに南方で息絶える寸前の友人を見つけた。
熾烈な争いの続いた硫黄島で、地下に潜る兵を燻し出すための火炎放射を浴び、顔面と胸を大火傷した佐藤は、生きながらに全身を蛆虫に食われている状態だった。
薬も何もなかったが、怪我をする直前まで兵士の傷を見てやり、敵兵に気が付くのが遅れたらしい。
手榴弾のピンを弾いて自決する体力すら失って、彼は土くれでできた寝台らしきものの上で、ただ息をしていただけだった。
脱水症状が悪化し、水も受け付けない状態で、ほどなくすれば死亡するだろうと、アメリカ人の医者から無線が入った。
「彼の、精神力は大したものだ。一体、彼をつなぎとめているものは、何なんだ。」

「心理学的見地から、むしろそこを知りたいものだトマス、手を尽くそうにも、この状態では助ける術はない。」

「せめて・・・彼に、息子が会いに行くと言ってやってくれ。それが、彼の唯一の希望だから・・・頼む。」

戦場の友人に向けて個人的な頼みごとをするのは、さすがにそこまでが限度だった。
その後、灼熱の地に倒れた佐藤良輔が、家族の下に生きて戻ることは二度とない。
トマスからの伝言を聞くと、軍医の言葉に満足したかのように大きく息をつくと、静かに息を引き取った。
全軍が玉砕した硫黄島で、愛する妻と息子達を腕に抱く幸せな夢を見ながら、軍医少尉、佐藤良輔は力尽きた・・・
それでも、父の最期の様子が分かって良かった・・・と、良平は思う。

「ご多忙の中ご尽力頂いて、ありがとうございました。」

涙ながらに友人の最期の様子を告げるトマスに、良平は頭を下げた。
四国に帰り療養中だった良平は、届いた遺品を胸に抱き気丈だった。
父の望んだとおり、この先は医師となって母と四国の佐藤家は自分が守ると決めていた。
髪と爪を、出征する折に仏壇に供えて旅立った、用意周到な父。
葬儀は異国にいる凛斗を除いて、ささやかに行われた。
いつかと逆に、今度は勝次が頼りになった。
良輔の葬儀を終えた翌朝、家族と使用人の民は、同じ不思議な夢を見ていた。
かまどで朝ごはんの支度をしていると、背嚢を背負った良輔がにこにこと
「帰ったよ。」と、勝手口から入ってきた。

「ただいま、みんな。」

それぞれにかけた言葉は違っていたが、きっと本当に遺品と共に良輔は帰ってきたのだと思う。
白いシャツで手を振って、息子達二人の名を呼ぶ父。
目覚めたとき、懐かしい姿だけがなかった・・・
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