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小説・約束・59 

凛斗の入院した病院が、東京に近い横浜だと告げると、沙代子を抱え上げ軍のジープに乗せた。

「案内して。」

トマスは凛斗の祖父への挨拶を済ませ、身の回りの物だけ持つようにと指示し、ともに病院へ向かった。
長く離れていても不思議に違和感はなく、あるのは懐かしさだけだった。
長い11年の間に、沙代子は良輔との間に息子がいると報告し、彼は軍隊で知り合った女性と結婚したと告げた。
離れていた時間は長かったが、互いに素直に相手の幸せを喜べた。
生きている、それだけが奇跡のような焦土と化した日本の病室で、トマスは桟橋で別れたきりの息子と再会し泣き崩れた。
成長した息子の中に、別れた時の大切な面影を探し抱きしめた・・・
幾度名前を呼んでも、叶わなかった夢が現実になって、腕の中で少し困ったような表情の凛斗。
戦渦に晒された日本の悲惨な情報は、軍に居れば幾らでも入ってきた。
非人道的な油脂爆弾の導入によって日本は国土も心も完膚なきまでに打ちのめされ、領空を席巻する連合軍を相手にするはずの日本空軍に迎撃する飛行機は残されていなかった。
元々資源の乏しい国の、走ってきた道の名は破滅という。
連合軍司令部でも話題は「カミカゼ」ばかりだ。
自らを兵器と化して、祖国を守るため爆弾を抱いて攻撃を繰り返す、まだ幼さの残る若者達の悲しい自爆がやりきれなかった。
トマスは、そんな中に凛斗がいるのではないかと、度々考えを巡らせた。
実際、亜米利加では亜米利加国籍を持った日系人は、当然のように最前線へと送られていたからだ。
戦争を早く終わらせるという名目の元、絨毯爆撃に使われた焼夷弾の炎は水をかけても消えない物に変わって居た。
上空から撮られた、何もない荒涼の焼け野原の写真。
だから・・・

「僕には、とてもリンが生きているとは思えなかった・・・君の綺麗な眼も髪も、きっととうに燃えてしまっただろうと・・・」

「生きていてくれてありがとう、リン・・・君が二つの国の希望だ・・・諦めなくて良かった・・・!」

「とうさま・・・」

煙草の残り香の沁みた軍服の袖に、静かに涙が吸われてゆく・・・

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