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愛し君の頭上に花降る 1 

「望月祥一朗」は、旧華族、望月子爵家の嫡男として生まれた。
良い意味だけを持つ「祥」の字に、幸せな人生を送りますようにと両親が願いを込めて付けた名前だった。
だが、縁起の良い名前を持った祥一朗は、残念ながら両親にとってどうしようもない不肖の息子だった。

「どうした、祥一朗。何を泣いている」

「お父さま……」

徒競走で転んだせいで最下位になってしまったと、祥一朗は泣きながら告げたが、父は嘘だと知っている。
元々、徒競争で上位になったことなど一度もない。
誰に似たのか、この子は運動も勉強も不出来で、何一つ取り柄というものがない。
武道を習わせてみても、ヴァイオリンを弾かせてみても、何一つモノにはならなかった。
努力を惜しみながら、才能のない自分を認められないで、嘆いてばかりいる。
父は視線を外すと、一つため息をついた。

父は、貴族院議員の議長を務めたほどの人物で、文武両道に優れた美丈夫だった。
母も皇族に縁戚を持つ公家華族で、繊細な美貌の持ち主だった。
縁談は両家に雨のように降り注いだ。
物語のように舞踏会で恋をした二人は、誰もが羨む幸せな結婚をし、一男一女に恵まれ順風満帆な日々を送っていた。
高慢で自尊心だけは高い不出来な息子に頭を痛めながら、それでも彼らは盲目的に子供たちを愛していた。

祥一朗は、受験にも失敗している。
無試験で入れる学習院で、勉強についてゆけないのは肩身が狭かろうと、父が考えたのがあだになった。
ここなら大丈夫だろうと、かなりレベルを下げて受験したが、緊張のあまり靴紐もまともに結べないほどテンパっていた祥一朗は、答案用紙に自分の名前を書くのを忘れてしまった。
学校長から事実を知らされた祥一朗は、しばらく茫然自失としていたが、やがて父親が金を使って私立高校に裏口入学の手続きを行うと黙って従った。

望月子爵のご令息として、鳴り物入りで入学した祥一朗は、高熱で有名私立華桜陰高校の試験を受けることができなかったから仕方なくこの学校に入ったんだと、うそぶいていたが、虚像はすぐに白日の下にさらされることになる。
勉強も運動も大してできないくせに、血統の良さだけを自慢する祥一朗に、同級生は呆れ距離を置いた。
ばらまく金に釣られる取り巻きだけが、上面だけ「若様」と呼び、祥一朗の自尊心を満足させた。
一見したところ端正な顔立ちではあったが、祥一朗の歪んだ性根は風貌にも表れて、どこか小賢しい印象の青年は、やがて進路の岐路に立つ。

「お前はいったい何になりたいんだ?少しは自分の事を考えているのか?」

それでも、父は祥一朗を見捨てなかった。

「お前の学力では、帝大に入ることは難しい。事業をするにも今の時代は、軍と付き合わなければならん。下層出身の軍人とお前がうまくやっていけるとは思えん」

「お父さま。ぼくは、医者になりたいと思います」

「医者だと?それはまた、大層なことを思いついたものだな」

「医学部のある医大は無理でも、医専にだったら、入れるんじゃないかと思います。……あの、体の弱い祥子の事も心配だから……」

半分方便だったが、半分は本気だった。
仲の良い妹、祥子は身体が弱かった。
祥一朗なりに、妹のことを心配していた。
祥一朗に甘い父は、結局、再び大枚をはたいて彼を医専に入学させた。

そこで祥一朗は、同級生に初めての恋をする。
当時は同性に恋心を抱くなど、とても口にはできなかったが、姿を見るだけで幸せだった。
勉強が苦手な割に、相変わらず大風呂敷を広げ見栄を張る祥一朗を、級友たちは陰で嘲笑したが、彼は傍で楽しそうに笑っていた。
商家の長男だったその人は、少しでも徴兵を遅らせるために、親に言われて医専を受験したんだと打ち明けた。
実際は思惑とは違い、戦争が拡大するにつれ不足する軍医を調達するため、軍医予備兵として徴兵が早まり、形だけの卒業をすると、時を置かずして南方の戦地に送られることになった。
赤紙が来たんだと、祥一朗に告げた青年は、すでに覚悟を決めていた。

「もう、お別れだね……」




お久しぶりの新連載です。
戦後からのお話になります。
初恋はかなうことがないと言われていますが、当時はもっと切ない結果に終わったはずです。
祥一朗の恋の行方は……

火 木 土曜日更新の予定です。
どうぞよろしくお願いします。



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